F1ピットストップBACK NUMBER
最終戦でベッテルに屈したアロンソ。
レッドブルが仕掛けた恐るべき罠。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/12/02 10:30
シーズン中はベッテルに対してのわだかまりもあったウェバー。優勝争いの一角に食い込めたことで最終的に満足できたのかどうか……
フェラーリ陣営の判断を狂わせたウェバーのピットイン。
とはいえ、この時点でアロンソはまだ4番手。そのまま走行していれば、自力でタイトルを獲得できるポジションはキープしていたわけである。そこでレース再開後しばらくして、レッドブル陣営は次の一手を打ったというわけだ。
それが、ウェバーの早め(11周目)のピットインだった。
レース前の段階で、スタート時に上位陣が装着していたソフトタイヤの交換時期をブリヂストンのエンジニアたちから15周から20周目と聞いていたフェラーリのエンジニアは、徹底的にマークしていたウェバーがずいぶん早くピットインしたことに戸惑ったはずだ(路面コンディションがどのように向上するかを見極める必要があるとブリヂストンから注意もされていたのだが)。
タイヤのグリップ力がレース中にどのように変化するのかは、実際に走ってみないとわからない。しかも、タイヤ交換した3周後(14周目)にウェバーがアロンソよりも速いラップタイムを刻んだものだから……フェラーリ陣営はすぐさま15周目にアロンソをピットインさせたのである。
その判断は「対ウェバー」に関しては成功し、16周目にはアロンソがウェバーの前でコースに復帰したが、「タイトル争い」を考えた場合、失策となってしまったのだ。
アロンソの前にはすでに1周目のセーフティカー出動時にタイヤ交換を済ませ、会心の走りを見せ始めていたロズベルグとペトロフがいた。さらにアロンソがピットインした15周目過ぎあたりから、路面コンディションが著しく向上し始め、上位陣たちとの差は開くばかりとなっていたのだ。
アロンソが、先行するマシンたちを抜くのは困難だと悟り始めるのに、そう時間はかからなかった。
「チームのためにいい仕事ができた」とウェバーはしてやったり。
もちろん、ここまでの話はチームスタッフではなく、ブルツのコメントであり解釈だ。
ウェバーの早すぎるピットインに関して、レッドブルの技術部門トップのエイドリアン・ニューウェイは「直前に軽くリアタイヤを接触していた」ことを理由に挙げている。しかし、レース直後に「チームのためにいい仕事ができたと思う」と語っていたウェバーのコメントには、ある種の達成感すら感じられたのも事実であった。
「もし、予選でウェバーが5番手でなく、2番手か3番手だったら、違ったストーリーになっていたかもしれない。しかし、そうはならなかった。ベッテルがポールポジションを獲得したとき、レッドブルのシナリオは書き換えられた。少なくとも、私はそう思っている」
そう語るブルツの横で、マテシッツは静かに微笑み、シャンパングラスを幸せそうに傾けていた。