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<富士山を10倍楽しむ方法> 神谷有二 「世界遺産を深く知るなら百名山に登るべし」
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byMiki Fukano
posted2013/09/10 06:00
宮之浦岳は九州最高峰の標高1936m。屋久島は年間平均気温20℃弱の亜熱帯だが、山頂付近は7℃近くまで気温が下がる。山岳島のため、山頂付近の地形は急峻で、ロープを使う場所もあるなど、本格登山の装備が必要となってくる。
宮之浦岳の縄文杉は、世界遺産の象徴ではない!?
宮之浦岳は登ると屋久島の大きさを感じる。島だし、山頂に立つとぐるりと島の全周が見えるだろうなんてつもりで行くと全然違う深さがあって、海があんなに遠いのかって驚きます。それは縄文杉を見ただけで帰るんじゃわからない。
縄文杉は確かに屋久島の象徴としていわば“ヒーロー”になっていますが、本来世界遺産の象徴ではないんですよ。世界遺産的価値は海から山まで続く照葉樹林帯にある。それに本来ならブナが生えているところにスギがあったり、サルとシカはいるのにキツネやタヌキがいなかったりと、不思議な生態系をしているんですね。それは本土とつながったり離れたりする島の長い歴史と関係がある。
宮之浦岳に登るならそういった固有の自然に触れられる島の西側の花山歩道や、永田歩道から登ってほしい。かなり厳しいルートで、ちょっと行ってみよう、と思って初心者が気軽に行ける場所ではありません。でも知床と同じように、世界遺産の価値を体感し、全体を俯瞰するにはすごくいい場所です。
富士山では歴史と文化の断片がすごく感じられる。
富士山は文化遺産に登録されたということが面白い。日本の登山のひとつの源流は山岳信仰なんです。それが大衆化する過程で富士講になったり、御嶽講になっていったんですね。それは僕は観光という言葉にかなり近しいと思っています。お伊勢参りが年1回の観光旅行だったように、御嶽講の人たちも会うと本当に楽しそうに年中行事として御嶽に登ってるんですよ。
ヤマケイ的な登山というのは、近代ヨーロッパから入ってきたちょっとスノッブな人たちがはじめたもの。でも日本の登山というのは、神聖であると同時に俗世界の文化も反映されてきたものだと思う。
僕が“文化”で一番嫌いなのは、昔から現在までつながっている話のはずなのに、それが分断して語られるところなんです。「江戸時代は素晴らしい文化がありました」って言うんだけど、それじゃあ面白くない。富士山に関しては、江戸時代に行なわれていたことが、少しずつ時代とともに変わっていき、現代につながっている。以前博物館で江戸時代の地図を見せてもらったんですが、今と同じような富士登山が描かれているんですよ。脈々と続いた歴史と文化の断片が富士山ではすごく感じられる。