CL王者の実力は、予想を遥かに超えたものだった。

　まず6部のチームにテスト参加すると、幸運にも練習試合で対戦したフォルトナ・デュッセルドルフU-23の監督に気に入られ、フォルトナに入団。ケガで3カ月離脱して思うような結果を残せず、契約延長とはならなかったが、今季の開幕前、ドイツ4部のレーデンのテストに合格して次の居場所を見つけることができた。

　廣岡は地を這うようにして、前に進み続けている。

「今は毎日がテストのような感覚です。日本ではこういう気持ちでサッカーをやっていなかった。本当に必死です。レーデンに移籍したときも、最初はレギュラーではなかった。けれど、FW、サイドハーフ、DFをやって最終的にボランチに落ち着き、バイエルン戦の直前にレギュラーになれたんです。バイエルン戦に間に合うか、間に合わないかで大きな違いですよね。すぐ親に『日本でもTV放送があるから』と電話しました（笑）。こんなチャンスは二度とないと思うんで」

　はたしてCL王者の実力はどれほどのものか。ワクワクしながらピッチに立つと、彼らの能力は予想を遥かに超えたものだった。

「ロッベンは速いうえに強い。少し当たっても全然ブレないんですよ。逆にミュラーは当たると軸がブレるんですが、なぜか崩れない。バランスがいいというか、泥臭いというか。フラッとしながらも、ボールを前に持って行く力がありました」

　廣岡は3ボランチの左に入ったため、バイエルンのサイドアタッカーと対峙する時間が長かった。ロッベンとミュラーが左右でポジションチェンジを繰り返し、猛攻を仕掛けて来る。

　この2人のうち、より嫌だったのはミュラーだった。

「ロッベンは足下でボールを受けてから、ガッとスピードアップしてドリブルで来るタイプだったので、『さあ1対1だ』という感じで構えることができた。でも、ミュラーの場合は動きながら受けて、そのままスピードに乗って来る。マークにつきづらいのはミュラーでしたね」

試合中なのに『ロッベンや！』と思って。

　試合後、廣岡はロッベンに挨拶に行くと、頭をぽんぽんと叩かれて「成功を祈ってるよ」とドイツ語で言われた。グアルディオラ監督に歩み寄って手を差し出すと、笑顔で「幸運を」と声をかけてもらえた。

「バイエルンの選手は、みんないい人たちでした。クロースは削っても、全然怒ってなかったですし（笑）。器がでかいなと感じました」

　最後にバイエルン戦で最も印象に残っていることは？　と訊くと、廣岡は少し考えてからこう答えた。

「ロッベンと1対1で向き合っているときに、試合中なのに『ロッベンや！』と思って。現実じゃないような感じでやっていました。この経験を今季のドイツ4部リーグにぶつけて、3部、2部にステップアップしていきたいです」

　今回の試合は、ドイツ国営放送で生中継された。これほど説得力のあるアピール素材はなかなかないだろう。頑張っている者を、サッカーの神様は見逃さない。きっといつかまた、廣岡に大きなチャンスが訪れるに違いない。