MLB東奔西走BACK NUMBER
レンジャーズのクリフ・リーの大誤算。
“Mr.オクトーバー”を襲名できず!?
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byRon Vesely/MLB Photos via Getty Images
posted2010/10/31 08:00
リーは、サイ・ヤング賞を受賞した2008年(当時インディアンス)には、ともにリーグ1位となる22勝3敗、防御率2.54を記録した
レギュラーシーズンは不調もプレーオフには華麗に復活!
リーのマリナーズからレンジャーズへのトレードが決まったのは、7月9日。偶然にもオリオールズの取材で現場にいた。
記者会見をした首脳陣の言葉からは、リー獲得にチームの将来を賭けている様子がありありと感じ取れた。
当時はチーム売却のため、新オーナーを決める入札が行われようとしていた時期だった。オーナー候補の1人だったノーラン・ライアン球団社長は、同じグループから多額の投資を受けるためにもチームを強化していくしかなかった。その象徴がリー獲得であり、その後も次々にトレードを成立させ、大胆なチーム補強を行った。
ロン・ワシントン監督や選手たちも、リー加入のニュースに驚喜。
記者会見に立ち会ったワシントンは笑顔でガッツポーズをしてみせ、選手たちも一様に「クリフがチームに加わることを歓迎しないヤツはいない」と口を揃えていた。
だが、8月は1勝4敗、防御率6.35と大不振。移籍後の成績は4勝6敗、防御率3.98と、首脳陣の期待には遠く及ばなかった。それでも若い先発陣の中で、実績、経験ともにプレーオフでエースを任せられるのはリーしかいなかった。そこで見せたリーの独壇場の活躍に、首脳陣は心の中でガッツポーズをしたことだろう。
エースの責任を果たせなかったリーの心中は……。
普段メディアの前では感情を表に出さす淡々と「自分の投球をするだけ」とか「チームのことしか考えていない」的な優等生発言が多いリー。取材する立場からは物足りないタイプではあるが、内に秘めた闘志は相当なもの。
2勝2敗で迎えたレイズとの地区シリーズ第5戦。5対1とリードし、8回を終え球数は111球に達していた。降板してもおかしくない場面だが、ベンチに戻ったリーは、自分の元に歩み寄ってきたワシントン監督に対し無言で頷き、続投を直訴したのだという。そして見事完投勝利でエースの役目を果たした。
「自分は積極的にカウントで有利に立つことができなかった。コントロールでミスを繰り返した。プロの打者ならこうしたミスに付けいってくる」
プレーオフ初敗戦後も表情を変えることなく静かに語るリーだが、その胸中は自分の責任を果たせなかった悔しさで満ちあふれているはずだ。