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イチローに試練の2012年が来る……。
シアトルか、優勝か? それが問題だ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/09/28 10:30
シアトル一筋に来たイチローだが、「東海岸の名門チームならその名声は数倍」という意見は昔からあった。野球人生の後半戦になって、彼はどういう判断を自らに下すのか……
イチローの去就を左右する、次期監督人事に注目。
イチローにとって気になるのは、来季の監督人事だろう。監督によっては、打順が変わる可能性も出てくるからだ。
今季、イチローは200安打を10シーズン達成したことでピート・ローズと並んだわけだが、記者会見でローズの記録を「超えてあげたいですね」と話した。この発言は限りなく次の監督に対してイチローを1番で起用するという圧力になるはずだ。
かつてルー・ピネラやボブ・メルビンといった監督が、状況に応じてイチローを3番に起用してきたが、近年ではイチローの1番は指定席になってしまったようだ(シアトルの新聞では今季の開幕前、「イチロー2番」は検討する価値があると書いたが、さしたる反響はなかった)。
これは本人の意向もあるだろうが、監督の指導力が相対的に弱まったという見方も出来るのではないだろうか。
イチローがある特定の条件によって(主力選手を休ませるoccasional restのときなど)、3番を打つというのは得点力不足に悩むマリナーズにとってプラスになる可能性があるのではないか。新監督がイチローとうまくコミュニケーションを取り、打順のオプションを持つことが球団としては望ましいだろう。
9月25日付のmlb.comでは監督候補として、ボビー・バレンタイン、マリナーズでプレー経験のあるジョーイ・コーラ、ワシントン州出身のライン・サンドバーグ、今季でレッズとの契約が切れるダスティ・ベイカー、そして今は暫定監督のダレン・ブラウンらの名前があがっている。
来年、新監督のもとでイチローがどんな役割を求められるのか(クラブハウス内のリーダーシップも含めて)、そしてチームとして結果を残すことができるのか、それがイチローの「2012年問題」に大きく関わってくるのだ。
重要な権利を手にしたイチローに迫られる「2012年問題」。
イチローとマリナーズの契約は、2012年に切れる。そのとき、イチローは必ずこういう問いに直面するはずなのだ。
優勝を狙えるチームに移籍するのか?
それともマリナーズひと筋でキャリアを全うするのか?
実は今季終了をもって、イチローは大きな権利を手にする。メジャーリーグには「10 and 5 Veto」という条項があり、10年間メジャーでプレーし、そのうち同一球団で5年以上プレーした場合、トレードの拒否権が得られるのだ。イチローは10月4日でその権利を手にする。