野球善哉BACK NUMBER
ベテランだけに任せておけない!!
阪神快進撃を支える若虎たちに注目。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/07/22 10:35
プロ野球の公示を見た時、はっとさせられた。
7月11日のことである。
それまで真弓監督が我慢して使い続けていたプロ9年目の桜井広大が二軍落ちしていたのだ。一軍ではプロ2年目となる上本博紀が初昇格を果たしていたが、この時期に落ちるのは当然上本だろうという見方が強かったのだ。
7月4日の巨人戦で先発したフォッサムが大炎上したことで真弓監督はフォッサムを見きり、代役に二軍調整中のメッセンジャーを昇格させることを決めていた。そしてメッセンジャーが先発登板できるようになるまでの間に、経験を積ませる意味も込めて2年目の上本を一軍に上げていただけだったのだ。だから、メッセンジャーが先発する11日は当然上本が再び二軍に落ちるものだと新聞メディアなども伝えていたのだ。
実力でチーム首脳陣に一軍残留を認めさせた上本。
上本ではなく、桜井が落とされた理由―――。
それは、上本のある活躍に首脳陣が目を奪われてしまったからだ。
7月9日の横浜戦で代走として一塁走者に立った上本は盗塁を敢行。成功させたばかりでなく、送球が逸れ相手守備陣がもたつく間に、本塁へ生還。試合を決める逆転のホームを踏んだのだ。翌日の試合でも、ビハインドから代走に出た上本は見事に盗塁を決めている。
使える若手が二軍から上がって来た。未来の大砲と期待され、メディアにもてはやされた桜井ではなく、この2年目の若手が一軍に残ったこと、そこに、意味がある。
阪神ほど若手の育成が遅れている球団はない。ひと昔前は、FAで選手を獲りまくっていた巨人よりマシだと思えたが、原政権の下で坂本勇人、松本哲也、山口鉄也らが台頭し、いつしかその位置関係は逆転した。今のプロ野球界で「豊作」と言われる田中将大世代に目を移しても、ほとんどの球団でこの世代の選手が活躍している中、阪神だけは今年の6月に横山龍之介が登板するまで目ぼしい選手がでてこなかったくらいなのだ。
有名選手を出場させる必要がある人気球団のジレンマ。
阪神の若手育成が上手くない理由は、この球団が持つある体質に起因していると思う。'90年代に活躍した、阪神タイガースのあるOBがこんな話をしていた。
「僕らの時はね、'85年の優勝メンバーはもう晩年だったんですけど、'85年戦士というだけで、試合に出られたんですよねぇ。なかなか若手が出るチャンスがなかった」
人気球団のジレンマと言っていいかもしれない。チームに人気があるから思い切った采配が揮えない。阪神に限らずファンとは勝手なもので、スタジアムに足を運んだ時、ビッグネームが出ていると安心するが、そうでない選手がいると不満に思うものなのだ。それで勝てればいいが、負けた時には「なんで、あんなやつ出すんや!」となる。阪神で言えば、近年の人気を支えた金本知憲や藤川球児が出ることは当たり前のように思っている。出ずっぱりの選手も、コンディションを維持するのは大変である。