スポーツはカタチから入る方なんですBACK NUMBER
メジャーリーガーも納得! 日本人が精魂込めて作るベースボール・グラブ。
text by
奥山泰広&高成浩Yasuhiro Okuyama & Seikoh Coe(POW-DER)
photograph byNanae Suzuki
posted2013/03/31 08:00
メジャーリーガーに評価される日本人グラブデザイナー。
高 米国ウイルソン・スポーティング・グッズ社には、麻生茂明さんというグラブデザイナーがいるんだ。メジャーリーガー達のニーズに対応して彼がデザインした理想的なグラブは、メジャーのトッププレーヤーから多大な評価を得ているんだ。
奥山 へえ、そんな有名な日本人がいるなんて、全然知りませんでした。
高 昔、パドレスのグレグ・マダックス投手が不振に陥った時、彼を救ったのは麻生さんと言っても過言ではないんだから。マダックス投手のウィニングショットはサークルチェンジなんだけど、投げる前に指がグラブに触れるか触れないかで球種がわかってしまい、ずいぶんと打ち込まれていたんだ。そこで麻生さんは彼の手のサイズを計り、独特な握りを分析し、ポケットを広く高めに設計したグラブを考案したんだ。で、見事にマダックス投手は復活できたってワケ。
奥山 あのぅ、僕は来月の試合でピッチャーはやらないんですけど。そもそもサークルチェンジなんて投げられないし……。
高 あ、そう!? んじゃあ、内野手かな。麻生さんは内野手用のグラブに、革命をもたらしたんだ。既存の内野手用グラブよりも小さく、指を入れる部分を短く設計することで、ゴロをより素早く的確に「すくい上げる→握る→投げる」動作を可能にしたんだ。その画期的なグラブは、メジャーリーグの内野手から大絶賛されたんだぜ。
奥山 おっ、それはいいですね。そのグラブにしようかな。
高 いや、どちらもアメリカのベースボールに適したグラブだから、意外と重くて、日本の野球……ましてや草野球には向いてないと思うな。
奥山 メジャーの強い打球に負けないように、厚く重くできているんですかね!?
高 おっ、わかってるじゃん。だいたいサ、メジャーリーガー達って肩が強いから、ゴロがグラブに収まりさえすれば、後はボールを掴んでビュンって投げれば簡単にアウトにしちゃうんだよ。だから、極端な話、グラブなんてボールをしっかり受け止めることができれば、どんなカタチでもいいって話もある。逆に、肩が弱い日本人プレーヤーは素早くボールを捌き、瞬時に送球しなきゃいけないから、軽さやカタチ、大きさに非常にこだわるんだ。
奥山 蘊蓄はそれくらいでいいでしょ。では、何を買ったらいいんですか?
高 だから~、俺が使っている「ウイルソン スタッフ」だよ。わざわざ家から持って来たんだから。これは硬式用グラブだけど、草野球でも敢えて硬式用を使うのがカッコいいんだよ。
日本の職人技が活きるグラブの性能&ディテール。
奥山 おっ、黒くてシブいですね(早速手に取ってハメてみる)……軽いですね~。それに手にしっとりとフィットする感じです。
高 そのままグラブの外側、甲の部分のレザーをチェックしてくれ。
奥山 ナンか、ボツボツしてますね。他の部分の革よりも、しゃきっと張りがあるような……。まるでバスケットボールみたいですね。
高 そのとおり! スーパースキンといって、本革ではなくバスケットボールに使われている素材なんだ。牛革の約2分の1の軽さにもかかわらず、耐久性は約2倍! しかも、水をはじくから梅雨時に湿気を含んで重くなることもなく、泥汚れも簡単に落とせるんだ。
奥山 逆に、内側の革は柔らかいですね。
高 そう! ポケット(捕球するときにボールが入る部分)を作りやすく、手に馴染むように、しなやかなステアレザーを使用しているんだ。そのステアレザー自体にもこだわりがあって、牛の背中の良質なトコロだけ使用するので、牛1頭から3個くらいしかグラブ用の革が取れないんだよ。
奥山 へえ、某セレブブランドのバッグ並のこだわりですね(笑)。
高 その他、グラブの土手部分に入っている芯を2層から1層に減らすことで、さらなる軽量化としなやかさを実現。また、手首のバンド裏に特殊なスポンジを使用して汗に対処するなど、プレーヤーに配慮したディテールも見逃せないね。
奥山 なるほど。さっき高さんが「日本人の職人が作っている」と言ってましたけど、こういうキメ細かく丁寧な仕事による品質&機能の高さが、ウイルソンのグラブの真価なんですね。だから、高さんはウイルソンを薦めるんですね。
高 わかってくれたか! 先述の麻生さんはメジャーリーグ担当だけど、NPBにも専任の担当者がいて、多くの日本プロ野球選手のニーズを取りまとめているんだ。
奥山 日本の選手って煩そうですね(笑)。
高 長さや太さ、重さをきっちりと数値として限定できるバットと違って、グラブは感触やイメージが大きな割合を占めるからね。選手が言う「もう少し軽く」とか「もっと柔らかい方がいいな」といった概念的なオーダーを、永年の経験と勘を駆使して理想的なカタチにするらしい。
奥山 単に軽いと言っても、何グラム軽量化すればいいのかわかりませんし、それに重心が変わっただけで軽く感じたりしますからね。大変だなぁ……で、そんな細かいオーダーを、日本人の職人が理想的なカタチに作りあげるんですね?
高 鹿児島県阿久根市に工場があってさ、50年以上に渡ってグラブ作り一筋に生きるグラブ・マイスターがいるんだよ。その人を始めとした熟練のグラブ職人が、メジャーリーグやNPBのスタープレーヤー達のグラブを数多く手掛けているんだ。その技術と経験が凝縮した逸品を俺みたいなヘタれオヤジでも手にすることができるのが、この「ウイルソン スタッフ」ってワケだ。