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<葛藤を経た21歳の現在地> 石川遼 「沈黙を破る」~米ツアー1年目の挑戦~
text by
柳川悠二Yuji Yanagawa
photograph byTaku Miyamoto
posted2013/03/23 08:02
2年間でわずか1勝、今季から挑む米ツアーでも苦戦。
そして人々を魅了した彼の言葉からも力が消えていた。
その知られざる理由と、本人が抱く決意に迫った。
サンディエゴから車で40分ほどのリゾート地・カールスバッド、その高台に石川遼がアメリカの拠点にする自宅はある。
この地は、石川が新たにクラブやウェアの契約先に選んだ「キャロウェイ」や、その他にも「テーラーメイド」などが本社を置き、住民の多くがゴルフ関連の仕事に就くゴルファーの町だ。石川が住む別荘地の住人も、既に日本からやってきた新参者を受け入れている様子で、石川宅が見当たらずに右往左往しているとひょっこり軒先から顔を出して「あそこだよ」と教えてくれた。
西海岸の温暖な気候、自宅から車で5分の場所にいつでも練習できるゴルフ場がふたつ、もう少し車を走らせれば、クラブフィッティングができるキャロウェイのテストセンターもある。石川はトーナメントがない週はこのいずれかに足を運んでいるという。週末の夕刻、練習後に頭髪を切りそろえたばかりの石川は、リビングのソファーにゆったり腰を落ち着けた。
「ゴルフに集中できる環境としてはこれ以上ないぐらいだと思います。ただ、ゴルフが上手くなるのに練習環境は関係ないというのが僕の昔からの考え。物理的な環境は揃えられても、ゴルフに向かう情熱はお金で買うことはできないし、向上心は自分がコントロールするしかないですから」
'08年のプロデビュー時に酷似する3戦連続の米ツアー予選落ち。
アメリカPGAツアーに本格参戦を果たした今季、石川は初戦のヒュマナ・チャレンジから3戦連続で予選落ちに終わった。6戦目までの最終順位は、135位タイ、125位タイ、121位タイ、61位タイ、132位タイ、39位タイで、予選通過は2度しかない。世界ランキングは94位にまで落ち込み、優勝争いとはほど遠い絶望的な結果が続く。
だが、酷似した状況はプロデビューイヤーの'08年にもあった。開幕当初に4試合連続予選落ちを経験しているのだ。
「いや、あの頃は、自分の実力を把握できていなかったし、また勝てるかどうか半信半疑だった。今は具体的にどの分野を伸ばし、何を上手くなれば勝てるかということが分かっている分だけ、視界は明るい」
ようやく手にしたアメリカツアーのシード権を、早くも手放す危機にある。突きつけられた現実に焦りも芽生えて当然だったが、石川の言葉はどこまでも遠い未来を見据えていた。