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強いチーム? やる気のある従業員?
スタジアムを満杯にするのは誰か。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images
posted2013/03/26 10:30
サンディエゴ・パドレスの本拠地、ペトコ・パーク。海沿いの街らしく外壁は白い砂浜をイメージしたという。2006年、第1回WBCで王貞治監督率いる日本代表チームがキューバを破り世界一に輝いた球場でもある。
従業員の満足度が高いと観客動員数も増える?
スポーツビジネスの本場アメリカに目を向けると、スポーツ業界で働く人を対象に実施された満足度調査の中で、ボストン・レッドソックス、ニューヨーク・ヤンキース、サンフランシスコ・ジャイアンツがMLBの中で最も働きたいチームに名を連ねている(Sports Business Journal/August 13-19,2011 Turnkey Search社との共同調査)。この3チームの観客動員数をみてみると、ヤンキースは昨年のMLBアメリカン・リーグの中でトップの3,542,406人を記録し、レッドソックスは2003年5月以来793試合連続のソールドアウトを更新している。そしてジャイアンツは、ヤンキースには及ばないものの300万人を超える入場者数をほこっている(MLB Press Release 10/04/2012)。
これらの調査はスポーツビジネス業界ですでに活躍する人々を対象にした調査なので、憧れだけではなく、やはり多面的にみて良い環境・条件なのであろう。鶏が先か卵が先かの議論もあろうかと思うが、多くのファンを抱えるチームにこそ創ることができる職場環境が、意識・志高い人を惹きつけ、その人たちがまた活躍するからこそより多くのファンを惹きつける。これらのチームはそのサイクルがうまく回っているとも考えられるのではないだろうか。
一般的に満足度の高い観客は、そのチームのロイヤルカスタマーになり、スタジアムへ足を運んでくれることも多い。
最下位パドレスはなぜチケット販売が好調なのか。
そこでもう1つ顧客満足についての調査もここにご紹介しよう。
MLB各球団のシーズンチケットを電話購入する際のスタッフの対応などを調査した結果がある(Sports Business Journal/May 14-20, 2012 IntelliShop社が実施)。その調査で1位になったのはサンディエゴ・パドレス。実はパドレスの2011年の成績はナショナルリーグ西地区最下位と、振るわなかった。それにもかかわらず年間チケットの販売においてリピート購買率は70%。さらに3000シートものシーズンチケットが新たに購入されたという。驚異的な数字である。
パドレスのTom Garfinkel氏は、その年間チケットの販売の秘訣は「誰を雇い、責任者にするかにある」と語っており、チケットの販売と顧客満足、そしてその顧客満足を高めるための「従業員」の重要性について指摘している。
スタジアム体験満足(チケットを購入する際からスタジアム体験は始まっている)の高い人は「また来たい!」と思う。時には仲間を誘って再来場するであろう。しかも、自発的に再来訪してくれる顧客へのプロモーション費用はそれほどかかっていないので、球団にとって、ファンが何度もスタジアムに足を運んでくれることは経営にも大きなインパクトとなる。
一般的な企業においても、同じことが言えよう。従業員満足の向上が顧客満足を上げ、顧客満足の向上により、企業利益や企業価値が最大化し、その結果従業員満足がさらに向上するというサイクルを回し続けることが重要となる。