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帝京の大学ラグビー4連覇で目撃した、
中村亮土の“オフビート”なリズム感。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byTsutomu Takasu

posted2013/01/23 10:30

帝京の大学ラグビー4連覇で目撃した、中村亮土の“オフビート”なリズム感。<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

中村は強豪校とは言えない鹿児島実業高校出身。前年度はCTBとしてプレーして大学日本一となり、7人制、15人制の日本代表にも選出された。

巧みなパスで試合を支配していた帝京のSO中村亮土。

 だが、自分としての最大の発見は帝京のSO、中村亮土だった。「なんだ、今頃中村か」と、ラグビーにくわしい人に叱られそうだが、準決勝の早稲田戦でも目立ったこの3年生は、決勝では完全に試合を支配して強い印象を与えた。

 SOというとタレントの多いポジションで、昔風のイメージでは「巧みなキックで大男たちを自在に操る業師」ということになる。中村ももちろんキックはうまい。角度のないゴールキックも何本か決めた。

 とはいっても、優男とか、小癪な業師といった感じは全くない。ジャイアンツの谷佳知に似た切れ長の目はハードな当たりを受けてもいつも冷静に試合を見ている。胸板が厚く、1対1の強さも申し分ない。自分でトライを奪いきる走力もある。

 特に感心したのは、パスを出すタイミングの巧みさ。最初はあまりわからなかったが、試合が進むにつれ、中村からパスを受けた選手がことごとくロングゲインをすることに気がついた。後半30分のトライなどはその典型で、中村からのパスを受けたナンバー8が一気に抜け出して長い距離を走って決めたものだった。

敵陣のタイミングを微妙にずらす“オフビート”の感覚。

 中村からのパスがなぜロングゲインにつながるかといえば、それは、出すタイミングが相手の守りの予想を微妙に外しているからだろう。普通の呼吸よりもちょっと早いかちょっと遅い。そのわずかの差が守る側のほころびを生んでしまうのだ。

 タイミングだけではない。相手との距離感もほかの選手と少し違っていた。たとえば、後半16分のトライも中村のパスが起点になっていたのだが、このときは味方の選手をまるでアメフットのリードブロッカーのようにして、そのうしろに回り込み、相手が一瞬自分の姿を見失うのを見計らってパスを出して大きなゲインにつなげていた。身体能力が高いのだから、目の前に敵が来たら「えーい、行っちゃえ」とぶつかって行きそうなものだが、この表情の変わらないSOは冷静に距離を取り直し、最高のパスを出していた。

 すでに、去年の春には代表にも選出されているので、将来性などいうまでもないことだろうが、身体能力や走力、キック力だけでなく、この選手には、ほかの選手にはない時間と距離の感覚、オフビートで動ける感覚が備わっているように見えた。こうした感覚は、タイプはそれぞれ違うが、サッカーの遠藤保仁とか野球の阿部慎之助だとか、特別な選手に備わっているものに近い。ひとことでいえば、微妙なタメがある感覚。力だけではない。教わって身に付くものでもない。得がたいものを持っている選手を見ることができて、点差は関係なく満足した試合だった。

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