スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ステロイドと殿堂。
~野球の名誉を汚した男たち~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/01/13 08:01
通算762本塁打やシーズン73本塁打など数々の金字塔を打ち立てたボンズだが……。
大酒飲み、マリワナ密売、競馬狂、セックス中毒……。
人種差別主義者は、ほかにもいた。19世紀の名選手キャップ・アンソンは、相手チームに黒人選手が混じっていると対戦を拒否した。いわゆる「人種の壁」の基礎を築いたのはこの人だと思う。そして、壁を強固にしたのが、ホワイトソックスのオーナーだったチャールズ・コミスキーであり、コミッショナーをつとめたケネソー・マウンテン・ランディスだった。ランディスが1944年に死去すると、この“カラー・バリアー”はじわじわと崩壊に向かう。ジャッキー・ロビンソンのデビューが1947年だったことは、ランディスの他界と無関係ではない。
殿堂入り選手には大酒呑みも多かった。ベーブ・ルース、ハック・ウィルソン、ポール・ウェイナー……。守備位置の外野からベンチまでまっすぐ戻れないウィルソンには、一塁転向の声があがった。二塁に滑り込んでも尻ポケットに突っ込んだ酒壜を割らなかったウェイナーを見て、毒舌王ステンゲルは「なんと優雅な選手だ」とつぶやいたことがある。
馬鹿な殿堂入り選手は、まだいる。マリワナ密売のオーランド・セペダ、競馬狂のロジャース・ホーンズビー、セックス中毒を告白したウェイド・ボッグス、脱税がばれたデューク・スナイダー。不正投球の常習犯ゲイロード・ペリー。
ステロイドは単なる愚行で収まる行為ではない!!
ADVERTISEMENT
このなかで首をかしげたくなるのは、ペリーだろうか。
これは野球というゲームのバランスを破壊しかねない行為だが、あとはただの愚行である。極端にいうなら、「勝手にやっていなさい」の世界だ。
が、先ほども指摘したように、ステロイドはそういう範疇の問題ではない。「ルールに違反しない」とか「みんながやっていた」とかいった言い訳も、あまりにお粗末だった。では、使わずにプレーしつづけることを決めた選手たちには、どんな言い訳をするのか。これでは、版元と闇交渉をして、「印税は要りませんから、ぼくの本を出してください」と持ちかける卑劣な文筆業者と変わらない。こんなことをされたら、ほかの物書きはたまったものではない。