スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ステロイドと殿堂。
~野球の名誉を汚した男たち~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/01/13 08:01
通算762本塁打やシーズン73本塁打など数々の金字塔を打ち立てたボンズだが……。
予想どおりゼロで終わった。2013年、全米野球記者協会会員の投票で殿堂入りを決めた選手はひとりもいなかった。
ご承知のとおり、殿堂入りを果たすには、全投票数の75パーセント以上を獲得しなければならない。今回、最高の数字を記録したのは、クレイグ・ビジオの68.2パーセントだった。以下、ジャック・モリス(67.7パーセント)、ジェフ・バグウェル(59.6パーセント)、マイク・ピアッツァ(57.8パーセント)といった名前がつづく。
注目のバリー・ボンズは36.2パーセント、ロジャー・クレメンスは37.6パーセントという低い数字に終わった。
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いうまでもないが、ボンズやクレメンスは超ビッグネームである。ただし、ビッグネームという呼び方には皮肉が含まれる。彼らはステロイドの常用者だった。年間73本という驚異的な本塁打数や、サイ・ヤング賞7回受賞という超人的な記録の達成も、ステロイド抜きには考えられない。
結論からいおう。私は、彼らには殿堂入りの資格がなかったと思う。モラリスト面をするつもりはないが、彼らは野球というゲームに泥を塗った。自分ひとりを有利な立場に置こうとし、使っていない選手に著しい不利益をもたらした。野球に対する犯罪は、時として社会に対する犯罪よりも重いことがある。
「最高の技術と最低の人格」と言わても殿堂入りしたタイ・カップ。
いうまでもないが、野球の殿堂に聖人君子はめったにいない。人生のお手本となるような選手の数も非常に少ない。
最も顕著な例はタイ・カッブだろう。「最高の技術と最低の人格」とまで評されたカッブは、札付きのレイシストだった。黒人を徹底して差別し、自分がホワイト・ニガーと呼ばれたときは刃物を振りかざした。
カッブは八百長にも手を出した。タイガースの監督時代、インディアンスの監督トリス・スピーカーと語らって八百長を仕組んだ形跡が濃厚なのだ。ふたりとも大選手だったが、彼らにはKKKの団員だったという噂もつきまとった。