フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
石川遼、宮里藍らの“心”を読む……。
「やる」「観る」「読む」ゴルフの魅力。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byHochi Shimbun/AFLO
posted2013/01/03 08:00
三井住友VISA太平洋マスターズで、2年ぶりの優勝を果たし、号泣する石川遼。
直径5cm足らずのボールが転がる間、荒れた海のように激しく波を打つ。
広がる不安が転がり込むのは歓喜か失望か。
「松村さんのボールがカップに向かって止まりそうで止まらない。見ているのはきつかった。あんな気持ちになったのは初めてでした」
2012年11月の三井住友VISA太平洋マスターズ、石川遼が2年ぶりの優勝を飾った試合の最後の場面である。
1打差まで迫ってきた同組の松村道央のイーグルパット。決まればプレーオフ濃厚、逆転を許す可能性まであった一打だ。グリーン脇でじっとうつむいていた石川は、松村がパットを打った瞬間に顔を上げた。ボールの行方を見つめ、不安に打ち震え、息をのむ。
ひょっとしたらゴルフの精神には反するのかもしれないが、悠長に相手選手の好プレーなど望んでいられなかった。石川のゴルフ人生においておそらく初めて、醜いぐらいにひたすら自分の勝利を願った一瞬。松村のパットはカップの手前、あとわずかのところで勢いを失った。石川は勝った。
藤田寛之の心胆を寒からしめた、わずか60cmのパット。
藤田寛之は2010年の日本シリーズJTカップで「ゴルフをやってきて一番怖かった」という場面に直面した。
優勝を決めるパットはわずか60cm。だが、東京よみうりCC名物の急傾斜の18番グリーンだ。下りの60cmが果てしなく遠い。
「勝つか負けるかだと心を決めて打った」
ボールが曲がるより早く、ラインを消して決めるしかない。「外れていたらグリーンから飛び出していたかもしれない」ほどの強さで打った勇敢なパットは、乾いた音を立ててカップに消えた。
ラインを読み、アドレスに入り、ボールを打つ。その間に巡らせた思考の数は、とても熟慮断行というだけでは事足りない。