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若武者は吉井コーチの薫陶を胸に。
日本ハム・中村勝の「終わりなき旅」。 

text by

加藤弘士

加藤弘士Hiroshi Kato

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photograph byNaoya Sanuki

posted2012/11/09 11:15

若武者は吉井コーチの薫陶を胸に。日本ハム・中村勝の「終わりなき旅」。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

中村は今季、レギュラーシーズン8試合に登板。2勝2敗ながら、防御率1.79と抜群の安定感を誇った。日本シリーズ第4戦では、ポストシーズン初登板とは思えない落ち着きを見せ、7回無失点と好投した。

シャイな男が明らかに興奮しているのが分かった。

 日本シリーズでの20歳対決は実に55年ぶり4度目。若武者同士の投げ合いは回を追うごとに、巨人・原辰徳監督が言うところの「異次元」に突入していった。札幌ドームの電光掲示板にはひたすら「ゼロ」が刻まれていく。中村は7回77球を5安打無失点の快投。宮國も7回100球、3安打無失点。互いに、負けなかった。

 ゲームは4時間15分、延長12回の死闘の末、飯山裕志のタイムリー二塁打で日本ハムがサヨナラ勝ちを収めた。1-0。延長11回まで両軍無得点は、日本シリーズ史上初の出来事だった。歓喜の輪の中で、喜びを爆発させる中村勝の姿があった。

 札幌ドームの地下2階で中村勝の会見が始まる頃、時計の針は23時を回っていた。20歳の声は熱を帯び、上ずっていた。頬は紅潮し、明らかに興奮しているのが分かる。勝っても負けても淡々としているシャイなこの男にとっては、極めて異例の姿だった。

「最高ですね、サヨナラ勝ちというのは。結果がどうこうというより、自分のできることを思い切ってやろうと、マウンドに上がりました。きょうみたいな経験をさせてもらったので、きょうで終わらず、次もしっかりとやっていきたい」

ひとりの若者が、勝負の鬼に変貌を遂げた記念日。

 わたしは必死にペンを走らせながら、思った。10月31日はひとりの若者が、勝負の鬼に変貌を遂げた記念日として、記憶に止めていこうと。

 あの日から1週間あまりが経った。日本シリーズは巨人が4勝2敗で3年ぶり22度目の日本一に輝き、日本ハムの今季は終わった。

 中村勝が快投した夜、「人気薄の馬が飛び込んできたみたいだったね」と笑っていた吉井コーチは、栗山英樹監督との意見の相違を理由に、退団することになった。どんな窮地に立たされようとも、「プレイヤーズ・ファースト(選手第一主義)」を貫き、投手陣の心身のコンディションを上げることに心血を注いできた名伯楽が、チームを離れる。慣れ親しんだファイターズの風景は、おのずと大きく変わることになる。

 背番号36は沖縄・国頭村での秋季キャンプで、来季に向けて汗を流す日々を送っている。2013年シーズン。「7回77球」を経験した右腕へと課せられるハードルは、期待の大きさゆえに、さらに高いものになるだろう。

「もっと大きなはずの自分を探す」中村勝の終わりなき旅は、まだ始まったばかりだ。どんな困難があろうとその長い手足で、したたかに、しなやかに、乗り越えて行くに違いない。

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