フットボール“新語録”BACK NUMBER
勝ち負けや昇格だけが全てじゃない!
JFLの“総統”が語るサッカー観戦術。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byYoichiro Kimoto
posted2012/11/05 10:30
対戦チームのゴール裏に乗り込み、“カギ”を片手に演説を行なうロック総統。かつては自ら株式会社ホンダロックで働きながら、週末に社員選手のプレーを応援していた。
地元の有名人になり、市議会選挙に立候補するが……。
試合は大差で負けたが、応援は大いに盛り上がった。東京で働きながら大会があるごとに宮崎に応援に駆けつけるようになり、いつしかホンダロックから「うちで働かないか」という誘いを受けるようになった。
「宮崎に引っ越して、ホンダロックで働きながら、チームを応援するようになりました。工場で働いていましたね。選手も同僚なのでプライベートのことまでよく知っている。酒飲みの選手が試合でペットボトルを手に取ったら、『おーい、それ酒入っちょるっちゃないとか!?』なんて野次ってました。ピッチも近いんで、選手が反応したりする。そうすると客席がどっと沸くんですよ。Jリーグにはない魅力を発見しましたね」
しかし、再び試練が訪れる。
地域密着型のスポーツを盛んにするために、ロック総統は延岡市の市議会議員に立候補することを決断した。延岡市は陸上が盛んで、ロック総統はサッカーだけでなく、駅伝や陸上の大会にも応援に駆けつけ地元で話題になっていたのだ。
だが、住民票を宮崎市から延岡市に移転するように頼んでおいたものの、知人のミスで1日だけ居住日数が足りず、立候補を発表したパーティーのあとにその資格がないことが判明した。
「もう恥ずかしくて、情けなくて、東京に逃げるように戻って、2年間くらい引きこもり生活をしていました。ほとんどスタジアムにも行かなかったです」
総統のコスチュームを身にまとい、ゴール裏に舞い戻る。
ロック総統はサッカーから離れてマネージャー業に戻り、ある俳優の担当をすることになった。撮影所に出入りする日々。決して楽しくないわけではなかった。しかし、やはりゴール裏の熱狂を忘れることはできない。もう1度、ホンダロックの応援に行きたいと思うようになっていた。
そんなある日、ひとつのアイデアを思いつく。コスチュームをまとえば、もう1度、ゴール裏で頑張ることができるのではないか、と。
「僕はホンダロックのゴール裏では、総統って呼ばれてたんですね。じゃあ、総統っぽい衣装を着ていこうと思い、美大の子にガンダムのギレン総統のコスチュームをオーダーした。でも、その子、ガンダムをまったく知らなくて、勝手にシャアの方がカッコいいと思い、シャアのコスチュームを作ってきてしまったんですよ。それでヘルメットも作って、今の“正装”が完成しました」
普通の人なら恥ずかしくて、とても公衆の面前には立てないだろう。だが、そこは元芸人だ。失笑に臆することなく、堂々とゴール裏に登場した。
「ショーパブに出るのと、あまり変わらないんでね。あとシャアのヘルメットって、すごく視界が悪いんですよ。まわりに見られてても、まったくわからない(笑)」