スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
昨季の躍動は夢だったのか?
A・ビルバオの悲しいチーム事情。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2012/11/01 10:30
今季まだ本調子でないFWジョレンテと悩める指揮官のビエルサ。
メディアに“暴露”された選手に向けたビエルサの演説。
そんな中、ビエルサが昨季ロッカールームで行った演説が録音され、その内容がメディアに公開されるという事件が立て続けに2度起きた。これが内部犯であることは確実であり、当初はビエルサの辞任を望む関係者の仕業なのだろうと思っていた。
だがその内容を読んだ後、もう1つの可能性が頭に浮かんだ。もしかしたらこの犯人は、チームの復調を願ってこの演説を公開したのではないか、と。
それはアトレティコに0-3と完敗したEL決勝に続き、バルセロナに手も足も出ぬまま同じく0-3で敗れたコパ・デル・レイ決勝翌日に行われた、シーズン最後の演説だった。
当時まだ今季の続投を決めかねていたビエルサは、これが最後の対面となるかもしれない選手達に対し、10分弱にわたって静かに、しかし厳しく思いのたけをぶつけている。
以下にその一部を抜粋する。
「君達は失望に相応しくない人々を失望させた」
「昨夜バスの中で会話や笑い声が聞こえた。私には許し難いことだ。諸君、町を動かし、失望させたんだ。我々は人々の期待するレベルにはなかった。アスレティック・ビルバオのファンを失望させたことを、私は本当に恥ずかしく思う。目をそらしてはいけない、諸君、我々は彼らを失望させたんだ……。
……しつこく繰り返そう。もし君達が私に従わず、私の意思を感じず、私の考えに納得せず、チーム内に亀裂が生じていたのならば、私が敗戦の責任を感じることはなかっただろう。だが実際は全てが真逆だった。スビアウレ、コイキリ、アイトール・オシオらプレーできなかった選手達は不平を漏らしてもおかしくなかったが、みなが私のプロジェクトを支持してくれた。だから私は誰に対しても、何の不満も持っていない。
それでも私には、君達のため、君達の未来のために言う義務がある。君達は町の人々を失望させた。失望に相応しくない人々を失望させた。彼らを失望させないためには、何も優勝する必要はなかった。もう一度はっきりさせよう。私は昨日、敗戦を恐れながらプレーする代わりに、勝つためにプレーしようと言ったはずだ。だが我々は勝つためにプレーしなかった。
全てはもう終わったことだ。チャンスはもう過ぎ去った。それとは別に言っておきたいことがある。君達はまだ若い。若くして大金持ちとなった君達は、この先何を気にすることもなく生きていけるだろう。だから笑うことも許されるのだ……」