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金本知憲とチッパー・ジョーンズ。
日米で大きく異なる引退のスタイル。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2012/10/21 08:02

金本知憲とチッパー・ジョーンズ。日米で大きく異なる引退のスタイル。<Number Web> photograph by Getty Images

アトランタ・ブレーブス一筋、19年に及ぶ選手生活の幕を閉じたチッパー・ジョーンズ。MLB生涯打率.303、2726安打、468本塁打、1623打点とメジャー屈指の成績を残した。

ジョーンズと好対照な幕引きを飾った、阪神の金本。

「試合後のクラブハウスは失意に満ちていた。皆が判定について文句を言っていた。だが自分は寡黙にしていた。責められるべきは自分だと感じていたからだ。あのプレーはおあつらえ向きのダブルプレーであるはずだったのに、あそこから3失点を許してしまった。誰も自分の最後の試合でチームの敗因になるような5打数無安打(実際は1安打)にエラーで終わりたいとは思っていない。今本当に心が痛い。自分に対してではなく、チームメイト、コーチ、ファンに対してだ。だがそれも含めて自分が今後乗り越えていかねばならないことなのだろう」

 ジョーンズが説明するように、試合後のクラブハウスは選手たちが、ただただうなだれていた。

 収まりのつかない選手たちの中には、ユニフォーム姿のままソファーに陣取り、試合後に行なわれた審判団の釈明会見をTVでチェックし続ける者もいた。そんな中、先に試合後の会見を終えたジョーンズはクラブハウスに戻ると、数人の選手と挨拶を交わしただけで、再びクラブハウスから離れていった。本当に寂しすぎる幕引きだった。

 これとは好対照だったのが、10月9日に引退セレモニーを行なった阪神の金本知憲選手の最終試合だ。

 ベイスターズ戦後に行なわれたセレモニーでは甲子園球場を埋め尽くしたファンに見守られながら、金本が現役最後の別れの挨拶をした。筆者はアメリカにいるため、数日後に確認させてもらうことになったが、その感動的なシーンに思わず胸を熱くさせられてしまった。引き際を飾る上でこれ以上ない最高の舞台だっただろう。

実は1年がかりで行なわれていたジョーンズの引退セレモニー。

 この両選手の最後の試合だけを比較すれば、MLBは何とも冷たい対応のように思われるかもしれない。だが、実はそうではない。この試合だけでは窺い知れない選手への敬意が満ちあふれていたのだ。

 ジョーンズの場合シーズン前のキャンプ中に会見を開き、今季限りの引退を表明していた。

 それに呼応するように、ブレーブスはジョーンズの功績を讃えるため、ジョーンズの「引退メモリーロゴ」を考案し、記念グッズを販売するなどして1年がかりの引退プロモーションを進めてきた。またシーズン後半の遠征では、遠征先のチームがそれぞれに試合前にジョーンズを労う特別イベントや記念品の贈呈などを行っていた。

 もちろん、本拠地最後の公式戦でもジョーンズを讃えるイベントがあったし、試合開始前にブレーブスの選手がベンチから登場する時には故意に(たぶん他の選手たちが計画して)ジョーンズだけをグラウンドに登場させ、ファンからスタンディングオベーションを受ける場面を演出していた(もちろんジョーンズは最終打席でもファンの最大級のスタンディングオベーションで迎えられている)。

 つまり引き際、引退試合は“悲運”だったかもしれないが、ジョーンズの引退セレモニーは1年がかりで行なわれていたのだ。

【次ページ】 現役にこだわり続けたからこその、静かな最後。

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