「後悔だけはしないようにやっていきたい」

「一応僕はプロという意識を持ってやらせていただいているんですけど、やっぱ世界で勝負できる人間だと思ってもらえているからこそ、会社も支援してくれるんですね。高橋さんも言ってましたけど、いつ『クビ！』と言われても後悔しないように。僕も後悔だけはしないようにやっていきたいです」

――それにしても、プレッシャーがかかる毎日です。学生時代から期待をされ続けてきて、疲れることはないですか。

「うーん、正直、日本マラソン界のためとか、国民の期待とか、そういうのはどうだっていいんですよ。僕は中学で陸上を始めて、（佐藤）修一先生に長距離のなんたるかを教わって、大学では酒井（俊幸）監督がずっと見て下さった。今は富士通に藤田さんがいて、いろんなことを教わっているんですけど、この3人というのがみんな福島の生まれで、同級生なんですね。僕も同郷なので、この3人から受け継いだもので世界と戦いたい。オレは福島の人に育ててもらって強くなったってことを、ただ証明したいだけなんです」

――ということは、今は藤田選手にぴったりと張りついている。

「合宿中もずっとジョグやら何やら一緒にして。しつこいくらいに観察してます（笑）」

「息抜きは、寝る前ですかね」

――力を伸ばすには良い環境ですね。練習、そして合宿。その繰り返しで、息抜きは？

「寝る前ですかね。部屋のソファに寝っ転がってボーッとしたり、ゲームをしたり、あの時間が僕にとっては至福です」

――ちなみに、初任給は何に使ったの。

「親に財布と時計。酒井先生と修一先生にも贈り物をしました。それと、バアちゃんに扇風機！ 前のがけっこう古かったので」

　環境が著しく変わっても、柏原本人は驚くほどのマイペースだ。真新しいスーツを着て実家に帰っても、「家族はあいかわらず雑な扱いでしたよ」と笑う。

　いよいよ秋の駅伝シーズンが始まるが、母校の活躍については「もう僕の4年間は終わったので気にならないです」と素っ気ない。一方で、実業団の花とも言えるレース、「ニューイヤー駅伝」の出場には執念を見せる。

「出たいとか、出られるかなじゃなくて、出るのが当たり前で、区間賞を取るくらいの気持ちでいたい。じゃないと結局、27分台も出ないし、世界と戦えないと思うんです」

　この遠慮のない自己主張が、さらなる活躍のためのキーワードなのかもしれない。やけに落ち着き払った23歳のルーキー。マラソンへの助走は始まったばかりだ。

【Q＆A】

柏原竜二（Ryuji Kashiwabara）
1989年7月13日生まれ。東洋大のエースとして箱根駅伝5区で4年連続区間賞を獲得。174cm、55kg。

Q1：履いているシューズは？

大学時代からミズノを愛用。社会人になっても変わらず履き続ける。

Q2：走る距離と頻度は？

1000km／月間

Q3：始めたきっかけ

双子の兄とともに中学から陸上部。

Q4：ベストタイム

01:16:39（箱根5区）