野球クロスロードBACK NUMBER
自身とチームの連敗をストップ!
ヤクルト・石川の“カツオ的”投球術。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/31 12:45
’07年の挫折が石川を変えた。
今までどおり。それまで、古田敦也のリードに甘えていたことも、この結果の一因だった。「サインに首を振ってもいいんだぞ」と言われても、「古田さんに任せていれば勝てる」という思いが強かった。そのため、古田が先発マスクを被らなくなったこの年は、捕手との呼吸がなかなか合わず、「自分でも投球を組み立てていかないと」と、思い悩むことも少なくなかった。
1年間苦しんだ末に、改めて大事だと思い知らされたのは、精神的な強さだったという。
「いいピッチングをしても勝てないと、そこで調子を崩してしまって次の登板でノックアウトされる。'07年は、本当に精神的な弱さを痛感しました。一軍で活躍し続けるためには、たとえ結果が出ていなくても頑張っていける強い気持ちが一番必要なんです」
'07年の挫折が教訓となり、また支えにもなっているのだろう。今年、連敗中でも心が折れることはなかった。登板した試合のコメントを見ていても、落ち込んでいるどころか、強気だと見受けられるものばかりだ。
辞任した高田繁監督が石川にかけた温情。
「中盤のピッチングをすれば乗っていける。こういうときにこそ、プラスに考えないといけない」(5月4日巨人戦)
「ここまできたら調子(の良し悪し)じゃない。数字を残さないといけない」(5月12日オリックス戦)
「連敗を自分で止めるしかない」(5月19日西武戦)
19日の言葉通り、29日にはチームの、そして自身の連敗を止めた。
26日に辞任を表明した高田繁監督は、「勝ちがつけば勢いに乗ると思う」と、しきりにエースを気遣い、二軍に落とすことなく起用し続けた。石川は、その温情に報いるため、今こそ勢いに乗らなければならない。
磯野カツオに似ているのは容姿だけではない!?
シーズンはまだまだ長い。'99年、同じく開幕から6連敗を喫した横浜の三浦大輔が初勝利を収めたのは、石川よりはるかに遅い6月20日のこと。そこから調子を立て直し、9勝を挙げている。つまり、まだ1勝とはいえ、勢いにさえ乗ってしまえば、2ケタ勝利のチャンスは十分にある、ということ。
石川のニックネームである“カツオ”は、サザエさんの弟に容姿が似ていることからつけられたという。その磯野カツオは、宿題をさせようとする姉の目を盗んでは外へ遊びに行き、テストの点数が悪くても父親にはしっかりと小遣いをせびるなど、実にクレバーな男だ。
一方の石川“カツオ”も、前回のオリックス戦で見せたように、相手の狙い球を見透かした投球術、内容はよくなくとも勝てるゲーム作りと、クレバーな投球を取り戻した。
だからこそ言える。今後、相手にとって“憎たらしい存在”になることは間違いない、と。