日本代表、2010年への旅BACK NUMBER
オシムも認めたイングランドとの善戦!
内容は「判定勝ちしていたかも」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2010/05/31 12:10
自宅のあるグラーツで日本代表の戦いぶりを目に焼き付けたイビチャ・オシムは実に上機嫌だった。
試合終了から約3時間後、会場のUPCアレナから車で20分ほどの距離にあるホテルで会見を開いた日本代表前監督は、イングランド代表を途中から本気にさせた岡田ジャパンの奮闘を独特な言い回しで称えた。
「ひと言で言えば(日本代表を)褒めてあげたい。日本にとって悲劇ではなく、ポジティブにとらえることのできる収穫の多い試合だった。ラウンド制だったら判定勝ちしていたかもしれない。12ラウンドのうち、8ラウンドぐらいまで(ポイントを)取っていただろう。まあ、最終的には負けてしまったが……」
岡田監督が本番まで2週間に迫ったところで賭けに出た!
一筋の光が射した。
残り20分間で2つのオウンゴールで逆転を許しての敗戦ではあるが、イングランドのサポーターでほぼ埋まったスタンドからは、健闘した敗者にも拍手が送られていた。雨雲で覆われたグラーツの暗い空に光を感じたのは、オシムだけではあるまい。
貫き通すべきか、変化を与えるべきか――。岡田武史監督はW杯まであと2週間と迫った土壇場でバクチを打ってきた。
これまで正GKで起用を続けた楢崎正剛に代えて「伸びがある感じだった」と川島永嗣を使い、ゲームキャプテンを中堅どころの長谷部誠にしたのだ。
これらはチームに変化をもたらすための手段だが、ここでまた失敗すれば致命傷となる怖れもあった。川島はPKを止めるなど好セーブを連発し、ゲームキャプテンの変更は「1人1人それぞれキャプテンだという気持ちが大切だとわかった」(長谷部)というチーム全体への意識改革をもたらした。“岡田ギャンブル”は結果として「吉」と出たのである。
機能したアンカー阿部勇樹の4-1-4-1システム。
変化と言えば、阿部勇樹をアンカーに配備した4-1-4-1の急造システムも奏功した。流動的に動くルーニーに対するマークの受け渡しがセンターバックと阿部とでうまくいかない時間帯もあったが、アンカーの横のスペースを阿部任せにすることなく、最終ラインと2列目がにらみを利かせていたことで危険を回避できていた。
前半の終盤、阿部が前につり出されたときでも、クサビのボールを中澤が前に出てカットするなど、最終ラインとアンカーの良好な補完関係が見られた。これが同点にされる残り20分までイングランドの攻撃を封じ込めた最大の要因だろう。後半開始から1トップで前に張り付くようになったルーニーをセンターバックが、トップ下に入ったジョー・コールを阿部が見るようになって役割分担が明確になると、ボールの入ってこないルーニーは明らかな苛立ちを見せていた。