オリンピックへの道BACK NUMBER
北京五輪が陸上短距離界に示した、
世界の舞台という「現実的目標」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2010/05/26 10:30
次々と日本新記録を更新している福島千里。北海道という冷涼な土地で育まれたその短距離の才能は、日本短距離陸上界全体を刺激している
4月から各地で大会が相次ぎ、陸上シーズンも深まりを見せている。
今シーズンはオリンピックの中間年である。世界選手権もなく、大きな大会と言えば11月のアジア大会となる。それだけに、2年後のロンドン五輪を見据えて、新たなチャレンジや地力の底上げを図る動きが見られる。
中でも目をひくのが、短距離種目である。特に女子の短距離陣は、意欲的な取り組みを見せている。選手個々はむろんのことだが、4×100mリレーは、ロンドン五輪でのオリンピック史上初の決勝進出を目標に掲げているだけに、精力的に練習を重ねてきた。
今年1月には、リレーメンバーによる合同合宿を、女子短距離第一人者の福島千里らが所属するクラブ「北海道ハイテクAC」の練習拠点のスタジアムで2度にわたり開催した。
スタジアムは室内とはいえ、あえて冬の北海道で行なったのは、近年、選手の成長が著しい北海道ハイテクのノウハウを共有したいという狙いがあったからだ。実際、「寒い時期は速い動きをしないほうがよい」という一般論に対し、冬場でも積極的にトレーニングに速い動きを取り入れる独特の方式に、参加した他の所属の選手たちは驚きで受け止めるとともに、刺激を得る機会となった。
その後、沖縄でも2度にわたって合宿を行なったことも、目標への真剣さの表れである。
合宿に参加した選手たちは好記録で冬期練習の成果を。
女子短距離の中心にいるのは、やはり福島である。昨年は100、200mともに日本記録を更新し、世界選手権では日本女子初の2次予選進出を果たした福島は、4月29日の織田記念100mで11秒21、5月3日の静岡国際200mで22秒89と、ともに日本新記録を出し、冬場の順調な練習の成果を示した。
福島のライバル、高橋萌木子も好調ぶりを見せている。福島が日本新を出した織田記念で、従来の大会記録を塗り替える11秒35の好タイムで2位となった。
また、他の選手たちも、合宿の経験を生かそうと懸命だ。
一方の男子では、北京五輪4×100mリレー銅メダルのメンバーだった塚原直貴が、2度アメリカに渡り、タイソン・ゲイのコーチの指導を仰いだ。スタートをはじめとする技術面でいちから教わったという。
今シーズン、大会での成績にはまだアメリカでの練習の成果は表れていないが、塚原自身、「今はまだ過程」と位置づけている。
というのも、塚原が大きな目標として掲げるのは、日本選手初の100m9秒台と、やはり日本選手初のオリンピック決勝進出である。そこへ向けての試行錯誤の時期だと捉えているのだ。