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欧州CL決勝に新時代の戦術を見た!
モウリーニョがインテルにかけた魔法。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2010/05/24 11:55
サッカーの戦術は、またしても次のステージへと進化したのかもしれない。5月22日、CLの決勝を制したインテルのサッカーは、戦術史に名を刻むであろう斬新なスタイルだった。
そのサッカーを、あえて一言で表すならこうなるだろう。
「超一流のテクニシャンによるハードワーク・サッカー」と。
インテルのカウンターはただのカウンターではない!?
インテルのサッカーは、ネガティブに見ると「ただの受身」だ。
相手がボールを持ってゴール前に近づいてきても、無理に奪おうとはせず、パスコースを消して相手のミスを待つ。決勝戦後、バイエルンのファンハール監督が、「インテルはリアクションしかしなかった」と愚痴ったのも、案外、的外れではない。支配率はバイエルン66%、インテル34%。圧倒的にボールをキープしたのはバイエルンだった。
しかし、古びた“ものさし”で測ったら、最先端の戦術は見えなくなってしまう。
インテルの真骨頂は、ボールを奪ったあとのカウンターのやり方にある。
通常、リアクションサッカーというと、技術レベルの低いチームが採用することが多い。ボールを奪うと前線のスペースにロングボールを蹴り込み、FWがダッシュでそのボールを拾いにいく、というやり方がほとんどだ。
だが、モウリーニョ流のカウンターは、それに比べて、はるかに効率的で、はるかにスピーディーなものだ。カウンターだけを取り出したら、インテルはバルセロナとほぼ同じサッカーをやっているからである。
もしもバルセロナがカウンターに専念したら……。
ここ数年、技術のある選手をそろえ、まるで手で扱うかのようにパスをまわせるチームが増えてきた。その代表的な存在が、昨季のCL王者・バルセロナだ。ハイスピードで動く選手の足元から足元へ、まるでバスケットボールやハンドボールかのようにパスをつなぐことができる。
バイエルンが今季のCLで決勝に進出できたのも、「足元から足元へのパス」を実践できたことが大きかった。ファンボメル、シュバインシュタイガー、ロッベンらがピッチを広く使って、ワンタッチで流れるようにパスをまわして勝利をつかんできた。
インテルはこのやり方を、カウンターに取り入れている。
決勝の先制点のシーンが、それを象徴していた。前半34分、GKからのロングフィードを、FWのミリートがマークをブロックしながら、近くにいたスナイデルの足元にヘディングでドンピシャのパス。すると今度はスナイデルが、ペナルティエリア内に走りこんだミリートの足元にピタリとパスを合わせた。フリーのミリートは、GKのタイミングを外すようにして、軽やかに先制弾を決めた。