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PK戦の末、イングランドに辛勝した、
“らしくない”イタリアが秘める可能性。 

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細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

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posted2012/06/25 12:50

PK戦の末、イングランドに辛勝した、“らしくない”イタリアが秘める可能性。<Number Web> photograph by Getty Images

120分の死闘の末のPK戦、1-2と追い詰められ緊迫した雰囲気の中、GKをあざ笑うかのようなチップキックでゴールを決めたピルロ。試合後、「GKがかなり気合いが入っているように見えたから、あのようにやろうと思った」と語った。

 PK戦が運によって決する勝負ではないことを、ピルロは自らの技術で証明した。

 イングランド対イタリアの準々決勝は、レギュラータイムの90分、さらに延長の30分を戦い終えてスコアレス。4強の残り1枠を懸けた勝負の行方はPK戦に委ねられた。

 バロテッリ、ジェラードとともに強心臓を誇る両チームの1番手がゴール左下に流し込んで1-1。しかし延長戦を優勢に戦っていたイタリアは2番手のモントリーボが枠の左に外し、一気に窮地に追い込まれた。ノチェリーノが小走りで出迎え、続いてボヌッチが肩を抱いてなだめても、モントリーボは顔を上げることさえままならない。そこに追い打ちをかけるように、イングランドはエースのルーニーが豪快に蹴り込んで2-1とリード。しかし一気に加速したイタリアの敗色ムードを、百戦錬磨の司令塔ピルロが一掃する。

 ゆったりとした助走でボールに向かったピルロが選択したのは、右でも左でもなく、ゴール中央へのチップキックだった。ボールは時間の流れを止めるように緩やかな放物線を描き、ゴールへと吸い込まれる。イタリアは間違いなくこのゴールで息をふき返し、守護神ブッフォンが止め、ノチェリーノとディアマンティが決めて4-2、歓喜の瞬間を迎えた。

カテナチオの呪縛から解き放たれた“いつもと違うイタリア”。

 この試合の風向きは、PK戦を含めて4度変わった。

 試合開始からデロッシの左足ボレーがポストを叩くまでの約3分間、イタリアはほぼ100%のボール支配率を誇った。決勝トーナメントに入ると、先制点を奪われることへの恐怖心から無意識のうちに“引いて構えてしまう”のが、いつまでもカテナチオの呪縛から解き放たれないイタリアのDNAである。しかしこの日は立ち上がりから中盤でボールを支配し、積極的にゴールに迫ってイングランドを威圧した。“いつもと違うイタリア”を感じさせた上々の滑り出しだった。

 しかしその流れは、イングランドのエース、ルーニーにいとも簡単に断ち切られる。

 4分には個人技で局面を打開してウェルベックのシュートをお膳立て。相手にカウンターの脅威を植え付けて最前線に起点を作ると、絶妙なポジショニングでパスを引き出し、徐々に流れを引き戻した。5分にジョンソンが迎えた決定機はブッフォンのビッグセーブに阻まれたものの、サイド攻撃に活路を見いだし始めたイングランドが押し込む時間が続く。

 ハーフタイムでのボール支配率はイタリアが61%、シュート本数はイングランドの4本に対しイタリアが12本と圧倒したが、それでも主導権を握っていたのは、カウンターとサイド攻撃の威力を誇示したイングランドだった。

【次ページ】 リズムに乗るイタリアにイングランドは“簡略化”で対抗。

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