スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
カーターの逝去と25年の歳月。
~往年の名捕手の死を悼む~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2012/02/25 08:01
通算2092安打を放ち、1992年に現役引退。2003年に殿堂入りを果たした
球史に残るワールドシリーズから四半世紀が過ぎ……。
試合後、カーターは「確信があった」と記者団に語った。「私はひとりではなかった。ワールドシリーズ最後の打者になるつもりもなかった」と彼は付け加えている。信心深いことで知られていた選手だったが、このときの談話には、神とか超越者とかいった単語は残されていない。
代わりに浮かび上がってくるのは、集中という言葉だ。もうひとつ、熱意というシンプルな言葉をそこに書き加えてもよい。カーターは、まちがいなく野球が好きだった。キャッチャーズ・マスクを手に、ちょっと肩をそびやかすような姿でホームプレートへ歩み寄り、野手に声をかけて、投手の球を受ける。
一連の動作が、彼にはとてもよく似合った。5月や7月のシェイ・スタジアムで、私はそんな彼の姿を何度か目撃した。あれからもう25年以上が経ったのか。時の流れの速さに、いまの私はちょっと置いてきぼりを食らったような気分でいる。