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ケルンでの厳しい1年を経て、
槙野智章がくだした決断。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byItaru Chiba
posted2012/01/06 10:30
所属クラブでも日本代表でもなかなか出場機会に恵まれなかった槙野。2012年は心機一転、巻き返しを図れるか
リザーブチームの試合にさえも出られない苦悩。
バイエルンの宇佐美やボルシアMGの大津のように2軍にあたるリザーブチームで出場機会を探ることもできたのだが、悩ましかったのは多くの試合がトップチームの試合日程と重なっている上に、トップチームのベンチ入りメンバーとしては計算されていたからだ。槙野がリザーブチームの一員として初めてプレーしたのは、前半戦が終わろうとしていた12月10日のことだった。
今シーズン最も長い時間出場できたのは12月16日のバイエルンとの前半戦最後の試合だった。ブレツコが負傷したために前半の14分から5バックのセンターバックとして出場。ドイツ代表のミュラーからボールを奪ったり、同じくドイツ代表FWゴメスとも互角に競り合った。相手にゴールを奪われてチームメイトが意気消沈していた後半にはサイドバックにポジションを移し、積極的なオーバーラップをしかけて見せた。試合自体は0対3で敗れたものの、ロッカールームに戻るとソルバッケン監督からは「マキノのプレーは、とても良かった」とみんなの前でほめられた。
「楽しかったですよ。アウェイで、知っている選手がいっぱいいる中でやれたんですから」と少し表情を和らげて、槙野はこう振り返っている。
「やっぱり、試合に出たいと思うようになりました」
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「正直苦しい1年でしたけど、実りのある、中身の濃い期間だったかなと思いますね。日本ではなかなか経験できない出来事がたくさんありましたし。試合に出場できない中で自分を見つめなおす良い時間だったかな」
果たして、この1年で何が変わったのか。
「やっぱり、試合に出たいと思うようになりました。ドイツに来たころの意識とは変わりましたね。最初の半年は、環境になれるとかベンチにいても良い経験ができればいいなと思いましたけど、ピッチに立たないと感じられないものがたくさんありますし。そういう意味ではせっかく来ているんだから、やっぱり試合に出たい。他の選手に負けていない、自分にも出来るという自信があるからこそ、チャレンジしていきたいなと思います」
レンタル移籍の決断は「ポジティブなものですよ」。
前半戦の日程が終了した後、槙野はクラブと話し合いの場を設けた。そこで出されたのは、試合に出て経験を積むためにレンタル移籍を模索していくという方針だった。
思えば今シーズンの始まる直前のこと。日本代表の活動を終えた槙野は、チームの始動日の2日前にドイツの自宅に戻った。日本でのオフを満喫するために、大半の選手が始動日の前日に慌ただしくドイツに戻る中、槙野が帰国日を早めたのも、万全の体調で今シーズンのスタートを切り、レギュラー争いに挑むためだった。
「体調のことを考えて? そうですよ。まぁ、ここまでやることはやってきましたから悔いはありません」
レンタル移籍という選択肢を第一に考えたのも、いつかまたケルンに戻ってきてレギュラーとしてプレーするためなのだ。だから、槙野は断言する。
「今回の決断は、ポジティブなものですよ」