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ミズノスポーツライター賞、
受賞作品の傾向と今後。
~最優秀賞は宇都宮徹壱氏~
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byNumber編集部
posted2010/04/02 06:00
『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』 宇都宮徹壱著 東邦出版 1429円+税
先月初旬、2009年度のミズノスポーツライター賞受賞作が決定した。本誌でもお馴染みの宇都宮徹壱氏の『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』が最優秀賞、柳澤健氏の「日本レスリングの物語」が優秀賞である。
前者は、「国外で最も居心地の良い街」と筆者が語るユーゴスラヴィアのベオグラードをはじめ、ポーランド、スコットランドなどから島国に至るまで、欧州中の辺境地のサッカー事情を写真とともに綴った力作。選評にはこう書かれている。
「ある章では、その地域の歴史や文化に対する鋭い視点と優しい共感が独特の輝きを見せている。(中略)ヨーロッパフットボールの歴史の奥深さ、日常生活に根付いたローカルなフットボールの魅力、そして現代社会の政治的・経済的パワーバランスを如実に反映したそれぞれの地域のフットボール事情が浮かび上がる」
一方、柳澤氏の作品は格闘技雑誌「ファイト&ライフ」に15回にわたり掲載されたもの。早大出身の柔道家・八田一朗ら、日本のレスリングを作り上げた男たちを、多数の関係者に取材して描いた。
スポーツノンフィクションの可能性は衰えていない。
今回で20回目という節目を迎えたミズノスポーツライター賞は、スポーツ文化の発展とスポーツ界の飛躍を期待し、これからの若手スポーツライターの励みになるように、と制定された賞である。
同賞の選考委員長を務める岡崎満義氏に話を聞いた。ちなみに、岡崎氏は初代ナンバー編集長でもある。
「賞を始めた頃は、時事的な新聞・雑誌報道と、単行本などのじっくりとした調査報道と、大きく分けてふたつを対象にしたようですが、最近感じるのは新聞報道が力を失ったこと。若者が読まなくなったり、広告が集まらずに経営的に苦しくなったことも原因なのかもしれない。単行本のほうは、良いレベルを維持している。スポーツの取材は、どうしても金と時間がかかりますが、近年だと『オシムの言葉』(木村元彦著)や『甲子園が割れた日――松井秀喜5連続敬遠の真実』(中村計著)などが印象に残っています。昔と比べても引けを取りません。がんばっている。まだまだ可能性を秘めています。