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DeNA監督就任報道、実は当て馬!?
過熱する報道と工藤公康の本音。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2011/12/01 10:30
この冬、少年野球教室に参加した時の工藤公康。様々な憶測記事が流れているが、本人はその去就をハッキリさせたわけではない
工藤は当て馬!? DeNAからの要請はまだ一切なし。
「内諾なんてしてませんから!」
そう強く前置きをしてから、工藤は冷静な見解を述べてくれた。
「候補のひとりと言ってもね、現時点で自分に直接話が来ていないってことは、多分、他の誰かと交渉を進めているからじゃない? そのことを悟られないように、わざと俺の名前を出しているんだと思うよ。その方がダメだったら本当に話がくるかもしれないけど」
監督要請報道について、DeNAの春田真会長が「まだ言えません」と意味深なコメントを残していることから判断すれば、工藤の言葉は的を射ていると言っていい。
二軍暮らしで学んだ、若手とのコミュニケーション術。
現段階でメディアが一方的に報道しているのは事実だ。しかしながら、個人的には工藤が横浜の監督となったことで、チームがどのように成長していくのか楽しみでもある。
プロ野球歴代最長となる実働29年というキャリア。通算224勝と実績も十分に備わっている。先鋭的なトレーニング法を導入するなど、全盛期の投球は知らずとも、若手、中堅問わずほとんどの選手が工藤の野球観を参考にしている。
そして何より、彼は横浜のOBなのだ。在籍当時は二軍暮らしも経験したことから、多くの若手選手とコミュニケーションを図ってきた。工藤自身、かつて「それは自分にとっても大きな財産だった」と語っていたことがある。
「芽が出なくても頑張っている若い選手と話をすることで、その苦労を共有することができますからね。彼らの辛さを知っていれば、『若いんだから失敗することで学んで、プレーに生かすこともできるんだよ』とか。ピッチャーだったらブルペンでの肩の作り方も、自分の体験談を交えながら具体的に教えられるじゃないですか」
野球選手として「投げられることを証明する」。
昨今の横浜は、実力はあるが結果が伴わない若手選手が数多くいる。工藤が指揮官になることで彼らを飛躍させ、チーム力を高めていくことは十分に可能なはずだ。
だからこそ、正式に監督就任要請が来たならば前向きに検討してほしい、と願う。
現実問題として、それは可能なのか? そう問うと、工藤はやや語気を強めて言った。
「それは知らないよぉ。俺のところには何の話も来ていないし、第一、12月の頭までには自分が投げられるかどうか答えを出さないといけないから」
今は、自身の目標であるメジャー挑戦が最優先事項にある。しかも、左肩の状態が芳しくない厳しい現実もつきまとっている。そもそも、監督就任という空想に意識を傾けている余裕など、工藤にはないのだ。