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レースに散った仲間達に黙祷を――。
インドGPで見たF1ドライバーの決意。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2011/11/03 08:02
インドGP、スタート前にF1の主だった関係者が全員揃って黙祷。明日は我が身ともいえるレーサー仲間の相次ぐ死は、初開催だったインドGPに暗い影を投げかけていた
スタートまで、あと15分となった午後2時45分。スターティンググリッド上にマシンを止めて、レースエンジニアと戦略の確認をしていたドライバーたちが、突然スタートラインへ向かって足早に歩き始めた。
ドライバー全員とチーム代表たちが一堂に会して、1分間の黙祷を捧げることになっていたからだった。
F1界がレース前に黙祷を行ったのは、これが初めてではない。1994年のモナコGPではその前のグランプリで事故死したローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナを追悼。2001年のイタリアGPではアメリカ・ニューヨークで発生した同時多発テロの犠牲者に祈りを捧げた。今年の開幕戦では東日本大震災の犠牲者たちに哀悼の意を表した。
同胞ウェルドンの死を悼んで喪章をつけるドライバーも。
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今回のインドGPでの黙祷は、10月に悲運の事故死を遂げた2人に対して行われたものだった。
ひとりは10月16日、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで開催されたインディカー・シリーズの最終戦で発生した15台のマシンが次々と衝突する多重クラッシュに巻き込まれ、命を落としたダン・ウェルドンである。
インディカーにはヨーロッパから参戦しているドライバーが数多くいる。ウェルドンもそのひとりで、カート時代にはジェンソン・バトンと、四輪の入門カテゴリーであるフォーミュラ・フォードではマーク・ウェバーとバトルを演じたこともあるイギリス・モータースポーツ界の星だった。
1999年からアメリカへ渡り、2005年にはF1モナコGP、ル・マン24時間レースと並ぶ世界3大レースのひとつであるインディアナポリス500マイルレースを制覇。これはイギリス人として1966年のグラハム・ヒル以来となる偉業だった。
交友が深かったバトンやウェバーだけでなく、同胞のルイス・ハミルトンも喪章をつけるなど、イギリス人にとっては深い悲しみに包まれた中で開催されたインドGPだった。