野球クロスロードBACK NUMBER
なぜソフトバンクで成功したのか?
CSでも打ちまくる、内川聖一の矜持。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/11/04 11:40
CS初戦を勝利で飾ったヒーローは、お立ち台に上って郷里の大分弁で「あとふたつ、勝つけんの~」と絶叫。過去1度もCSを突破したことのないソフトバンクだが、この内川の勢いでジンクスを吹き飛ばしそうだ
自身の打撃に反比例して成績が落ちるチームにいた頃。
プロ野球を代表するリーディングヒッターとして圧倒的な力を示した内川に対し、他球団の主力選手は異口同音にこう嘆息を漏らす。
「すごいとしか言えない。今の内川には穴なんかないんじゃないかな」
新天地で結果を出せた理由。それは、彼の中に「強い飢え」と「高い意識」があったからだ。
飢えとは、言うまでもなく勝利への渇望である。
右打者最高打率となる3割7分8厘を記録した'08年から、横浜は3年連続で最下位。向上する自身の打撃と反比例し続けるチーム成績に悩み続けていた内川は、国内FA権を取得した直後、そのことについて率直な想いを話してくれたことがある。
「それを身に染みて感じたのは'09年でした。WBCの日本代表に選んでいただいて世界一を経験しましたけど、その年も横浜では一番下になってしまって。そのギャップに個人的にすごくイライラして、正直、野球が面白くなかった日はたくさんありました」
「貪欲な姿勢を持つ人間がひとりでも多いチームが勝っていく」
横浜時代は、ベテランの三浦大輔やチームリーダーの村田修一がいたこともあり、表だって若手を鼓舞するようなことはしなかったが、打撃への矜持だけはそれぞれ薄れさせないよう努めていた。その時に生まれた想いこそが、もうひとつの理由である「意識の高さ」だ。
当時の内川はこう言った。
「負けこんでいるときは、ファンの方から『内川ばっかりヒットを打ちやがって』といったような厳しい声もありました。でも、僕からすれば、そのような言葉は真摯に受け入れつつも、『俺にとってはヒットを打つことがチームプレーなんだ』と思いながら試合に臨んでいました。個人の主張かもしれないですけど、やっぱりそういった貪欲な姿勢を持つ人間がひとりでも多いチームが勝っていくんだな、と思っているんで」
このような心情が、昨年オフのソフトバンク移籍を決意させたのだろう。