フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
フィギュアのシーズン開幕だが……。
五輪王者・ライサチェク欠場の衝撃。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byDaiju Kitamura/AFLO SPORT
posted2011/10/21 11:30
この夏、国内外の大物スケーターが集まって新横浜スケートセンターで開催された「フレンズ オン アイス」で華麗な演技を披露していたエヴァン・ライサチェク。バンクーバー五輪後は、世界選手権も欠場し様々な活動を行ってきたが、現役続行の意思だけは表明していた
10月21日から開催されるスケートアメリカで、いよいよ今季のGPシリーズが開幕。だが直前に、いきなり景気の悪いニュースが入ってきた。
「五輪チャンピオン、エヴァン・ライサチェク、スケートアメリカ欠場」
米国フィギュアスケート連盟(USFSA)が発表したのは、10月14日のことだった。
バンクーバー五輪で優勝して以来、競技活動を休止してアイスショーなどに専念してきたライサチェク。だが試合用のプログラムを制作し、いつでも戻れるようにトレーニングに余念がないという噂は耳にしていた。6月末にISUグランプリシリーズの出場選手が発表され、スケートアメリカとエリック・ボンパール杯にリストされたライサチェクの名前を見たときは、いよいよやるのかと本気に受け止めた。今季の見どころは、五輪チャンピオンの復帰、とあちこちに書き散らした後の欠場発表である。
金銭的な理由で、五輪金メダリストが今季のGPシリーズを欠場!?
不吉な予感がしなかったわけではない。
まずUSFSAがスケートアメリカ開催前に主催する電話記者会見の選手の中に、ライサチェクがリストされていなかったこと。そして何より、普段は生真面目に返答をくれるライサチェク本人が、スケートアメリカに関する私の問い合わせのメールに返事をしてこなかったこと。
なぜか欠場の理由は公式に発表されておらず、USFSA会長であるデイビッド・レイスの「我々はライサチェクの意志を尊重する」というコメントも、奇妙だった。
だがその理由はすぐに明らかになった。
翌日10月15日のシカゴ・トリビューン紙に、ライサチェクのコーチ、フランク・キャロルのこのようなコメントが報道されたのだ。
「エヴァンの体調は絶好調。だがUSFSAとの契約の合意に至らず、欠場を決めた」
USFSAの広報担当者も、ライサチェクの欠場の理由は金銭的なものであるということを認めたという。
五輪にアイスホッケーやテニスなどプロのアスリートたちが出場するようになった現在、アマチュアスポーツという言葉は死語になりつつある。
フィギュアスケートも1995年に国際スケート連盟(ISU)が試合で賞金を出すようになって以来、プロとアマチュアという言葉は英語圏では使われなくなった。選手の所属する国の連盟とISUの許可をとれば、アイスショーの出場はもちろん、スポンサー契約やテレビCM出演なども可能となり、「プロ」に転向せずともトップアスリートが高額のギャラを稼ぐのは当たり前のことになったのである。