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スカウトにとって本当の腕の見せ所!?
ドラフトの面白さは下位指名にあり。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/10/24 12:25
ルーキーイヤーだった2010年には開幕スタメンに大抜擢された中日の大島洋平。日本シリーズでも活躍し、6試合に出場して23打数9安打5打点を記録。シリーズの優秀選手賞を受賞している。今季は平田良介や野本圭と外野レギュラーを巡って競いあっている
12球団で唯一スカウトがスピードガンを持たない中日。
「上位に指名される選手というのは、例えば、ピッチャーだったら、球威・コントロール・変化球の切れ、フォームなど、全ての能力が高い位置にある選手。全てにおいて高い水準にある選手が上位に上がってくる。下位というのは、長所もあるけど、短所もある選手。その中で、短所がどの程度のものなのかで伸びしろを見極めていく。ウチでは150キロ投げられていても、リリースでストレスを感じるような選手は厳しい。思いきり腕を振って、コントロールが良い選手。つまり、リリースにストレスのない選手は、プロに入って身体を作っていけば、球が速くなっていくからね」
そう語るのは、中日・米村明スカウトである。
中日は12球団で唯一、スカウトがスピードガンを持たないチームで、数字ではないスカウトの眼力で選手を見極めるスカウティングが特徴だ。
昨年の大野単独指名も見事だったが、中日の近年のドラフトを見ても、非常に興味深いものがある。上位だけではなく下位の選手でも一軍で活躍する選手を生みだしている。有名どころでは、レギュラーに定着している大島洋平であり、高卒3年目にして、今季プロ初勝利を飾った小熊凌祐などだ。大島は'09年5位、小熊は'08年の6位だ。
「怪我が治ったらもっと良い球を投げられるはずだ、と」
大島の獲得は中日のドラフトとしては会心だったといえるだろう。'08年1位・野本圭の伸び悩みをカバーする大島の活躍は、中日において大きな意味を持つに到っている。見事なスカウティングだったとしか言いようがない。
米村スカウトは語る。
「スカウト部長の方から外野手の候補を探そうという話があった。そこで大島をリストに挙げた。大島は、野本ほどの長打力はないけど、走・攻・守すべてで野本より遥かに上回っていた。ところが、大島はドラフト年の6月に手首を骨折したんですよね。復帰戦が7月の末で、ちょうどその時は高校野球の予選。大阪大会の予選を半分見て、部長を連れて、(日本生命にいた)大島の試合を見に行きました。1打席しか見られなかったんですけど、そこで大島は二塁打を打った。もちろん、結果だけではないけど、走る姿も含めて、その時に、部長と『獲ろう』という判断になった」
小熊に関して言えば、彼は近江高校で活躍していた2年秋頃からひじ痛に悩まされていた。高校3年夏に、2年連続の甲子園出場を果たしていたが、ひじの痛みから精彩を欠いていた。多くの球団が小熊の評価を下げる中、中日だけは彼のポテンシャルにかけた。
「ドラフトの前の全体会議で、候補選手のビデオを見るんですけど、(落合)監督が小熊にほれ込んだ。そこで、担当スカウトとして説明させてもらった。怪我がありながら投げられたんだから、治ったらもっと良い球を投げられるはずだ、と。怪我がどの程度なのかも調査で分かっていたので、監督の強い意向もあったし、指名しました」