スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
今季のリーガで一番話題のチーム!?
変人ビエルサ率いるビルバオの革命。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAP/AFLO
posted2011/10/05 10:30
南アフリカW杯では攻撃的な3-4-3で王者スペインを苦しめるなど、チリ代表を躍進させたビエルサ。日本代表監督の候補としても名前が挙がっていた
複雑な戦術に結果が出ず、中心選手も負傷したり……。
ビエルサはまず、チームの基本システムを4-4-2から4-3-3に変更し、守備的MF2人+ウイング2人が基本だった中盤の構成を守備的MF1人+オーガナイザー2人の組み合わせに変えた。昨季までは控えだった技巧派MFイトゥラスペがアンデルと共にゲームメイクを担う。負傷した両サイドバックの代役に本職がMFの2人を起用するなど奇抜な人選もあったが、複数のポジションでプレーできるポリバレントな選手を好む「ロコ」の采配としては予想の範囲内だった。
しかし、圧倒的に攻め続けながらスコアレスドローに終わった今季初の公式戦、トラブゾンスポルとのEL予選プレーオフを皮切りに、内容に結果が伴わないところから、ビエルサの苦悩は始まった。
昇格組のラージョ・バジェカーノとのリーガ開幕戦を1-1として勝ちきれずに終わると、続くアウェーのエスパニョール戦は1-2で敗戦。しかもこの試合で司令塔のアンデルが右膝の半月板を損傷し、2カ月の離脱を強いられてしまう。ハビ・マルティネスをセンターバックへコンバートするなど、メンバーを変化させたELのスロバン・ブラチスラバ戦では公式戦初勝利をあげたが、そのときと同じ11人で挑んだ3日後のベティス戦では、相手のハイプレスに苦しみ全く攻撃を組み立てられず、ホームで2-3と惨敗した。
3-4-3へのチャレンジは早すぎたのか!?
リーガ3試合を終えて1分2敗。スタートでつまずいたビエルサは、5節マラガ戦でシステム変更に踏み切った。
彼の代名詞とも言える「3-4-3」の登場である。
ボランチのグルペギとハビ・マルティネスが3バックを務め、SBのイラオラとデマルコスがイトゥラスペの両脇に並んで3ボランチを構成し、ムニアインが3トップの後方で自由に動く、3-3-1-3に近い布陣。それはセンターバックゼロのメンバー構成で8-0と大勝したオサスナ戦のバルセロナを彷彿とさせる、MFを多数起用した意欲的な布陣だった。
しかし、高度な戦術理解力と選手間の相互理解を必要とするシステムを採用するには時期尚早だった。この布陣では常に3人で固めた中央の守備が安定し、またボランチ2人をセンターバックに起用することで最終ラインからのビルドアップが改善された。その反面、後方に人数を割いたことで攻撃の厚みは失われ、肝心のチャンスが作れない。個々が複雑な動きを要求されたため、4-3-3の時と比べチームとしての連動性も低かった。
結局マラガ戦はカソルラの直接FKによる一発に泣き0-1で敗戦。
続くビジャレアル戦ではシステムはそのままにハビ・マルティネスを中盤の底に上げる微調整を施したが、またも1-1と勝ち切れない。
試合後ビエルサは「今日は今季最高の内容だった。強敵を相手にゲームを支配し、勝利に値する試合をした」と内容に対する手ごたえを語った反面、「もちろん置かれた状況には不安を感じている」とも口にしていた。