スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
地味球団の逆襲と監督の手腕。
~ブルワーズとDバックスの快進撃~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byYukihito Taguchi
posted2011/09/11 08:00
ダイヤモンドバックスを率いるギブソン監督。2年連続最下位球団の意識改革に、見事に成功
ジャイアンツのプレーオフ進出に赤信号がともった。黄色信号などとは、もういっていられない。ナ・リーグ西地区の首位を走るダイヤモンドバックス(以下Dバックスと記す)には、すでに6ゲームの差をつけられてしまった(9月6日時点/以下同様)。残り20試合での逆転はまず不可能だし、ワイルドカード・レースでも、東地区のブレーヴスに7ゲーム以上引き離されている。開幕前、私はジャイアンツのワールドシリーズ連覇もありうると予想していたのだが、これは夢想にすぎなかったようだ。
代わりに眼を惹くのが、ブルワーズとDバックスの快進撃だ。投手力を強化したブルワーズの変貌は私も予想していたが、Dバックスの大化けは読めなかった。どちらの球団も昨年(2010年)は負け越している。ブルワーズが85敗で、Dバックスが97敗。後者などは、勝率4割がやっとだった。
ただ、前年に負け越した球団がプレーオフに進出する例は珍しくない。
1995年から2010年までの「ワイルドカード時代」に限っても、プレーオフに進出した128球団のうち、31球団までもが前年に負け越している。近年の例では'08年のレイズや'07年のインディアンスが記憶に新しいが、'97年と'03年のマーリンズや'02年のエンジェルスのように、あれよあれよという間にワールドシリーズを制した球団も、なかには混じっているのだ。
地味な戦力で最大限の戦果を挙げる監督とGMの手腕。
では、今季の2球団はなぜ化けられたのだろうか。変貌と逆襲の原動力はどこにあったのだろうか。
最初に断わっておくが、両球団とも大金をはたいてFA補強に走ったわけではない。新加入の顔ぶれを見ても、実に地味だ。ブルワーズが、S・グリーン、M・コッツェイ、斎藤隆。DバックスがG・ブラム、W・ブルームクイスト、H・ブランコ、J・J・プッツ(まるでマリナーズの同窓会だ)。年俸総額でいっても、昨年に比べてむしろ少なくなっている。
となると、観客の眼はやはり、監督とGMの手腕に向かう。
ブルワーズがダグ・メルヴィン(GM)とロン・レネキー(監督)。
Dバックスがケヴィン・タワーズ(GM)とカーク・ギブソン(監督)。
知名度でいうなら、当然Dバックスのほうが高い。なにしろこちらは、'88年のMVP(というよりワールドシリーズ代打ホームラン男の)キャプテン・カークことギブソンが指揮を取っている。一方のレネキーは、現役時代にほとんど目立った成績を残していない。