リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
敵地でフランスに完勝するも、
スペインに“W杯優勝”の言葉が無い。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byGetty Images
posted2010/03/11 10:30
42年ぶりに敵地でフランスを下したスペイン代表。フランスの徹底した守備を、スペインのパスワークが上回り、0-2で勝利。写真中央はダビド・シルバ
フランス代表のアンリが「スペインは別次元のサッカーをしていた」と語るように、3月3日に行われたフランス対スペインの親善試合は、0対2という実際のスコア以上の強さを印象付けて、スペインが完勝した。試合内容は、スペインがゴールチャンスを演出し続けるという派手なものではなかった。試合後アンリが溜息混じりに「別次元」と賞したスペインの強さとは、自陣に引きこもったホームのフランスを相手に、90分間試合を完璧にコントロールした連係の巧みさだった。
ドイツ大会のベスト16でジダン率いるフランスに完敗してから4年。フランスのホームに乗り込んだスペインは全く違うチームになった。メンバーが完全に入れ替わったわけではないのに、ピッチ上で展開されたサッカーは、まるで別物だった。
フランス守備陣を翻弄し続けたスペインの驚異的なパス回し。
4年前のフランスとの対戦で、スペインはサイドの突破力を活かし、縦へのスピードで勝負に出てきた。そのスペインのスタイルは、当時フランスの新鋭として期待されていたリベリーやマルーダらの力をより引き出すだけで終わってしまっていた。激しい攻防の末に身体能力で勝るフランスに競り負けたスペインは、高く押し上げた最終ライン裏のスペースをフランスの思うままに使われて、完敗した。
しかし、ユーロ2008予選、本大会、コンフェデレーションズ杯、そして南アW杯予選を通してスペインはフランスの持ち味を封じ、試合をコントロールする戦い方を身に付けていった。縦への突破に依存するのではなく、ボールを動かし続けてフランス守備網を揺さぶり、スペースが生まれればリズムチェンジしてゴールに向かう。
そのスペインの変貌ぶりを知るフランスは、今回の試合では異常なほどに守備を徹底してきた。そうすることが、スペインに勝つための唯一の方法だったからだ。守備を固めてボールを奪ったら、カウンターでゴールを狙う。フランスにはリベリー、アンリ、アネルカをはじめとして電光石火のカウンターを仕掛けるための強力な選手が揃っている。自陣半ばであろうと良い形でボールを奪えば、一気にゴールを陥れる力を持っていたのだ。
だが、スペインはフランスに全くチャンスを与えなかった。スペインのパス回しは常にフランスの先を行った。最終ラインのボール回しから、ワンツーパスだけでなく、さらに3人目、4人目の選手が次々とスペースに入り込みパスをつないでいく。このスペインの驚異的な連係プレーに、フランスのディフェンス陣は翻弄され続けた。
カウンター狙いのフランスだが、攻撃陣までもが守備を……。
フランスはアネルカ、リベリー、アンリ、グルキュフら攻撃陣までもが守備参加し、まるでW杯決勝であるかのような徹底的な守備意識を見せたが、それでも彼らは押し寄せるスペインからボールを奪えなかった。ボールが動くところにプレスをかけに行くが、次の瞬間には別のスペースへとボールは展開しており、他のスペイン選手が既にアクションをおこしている。しかも、それが途切れることなく続いていく。
プレスをかけにいってもすぐにボールを動かされ、次のコースに走ることを繰り返すうち、フランスは頭も体も消耗し、決定的なポジションミスを犯すようになってきた。分かっていてもスペースを埋めに行けない。気がつくと……スペースを陥れられているという具合に。