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世界屈指の登山家が明かす、
“運命の山”を巡る物語。
~映画『ヒマラヤ 運命の山』~
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph by(C)Nanga Parbat Filmproduktion GmBH & Co. KG 2009
posted2011/08/13 08:00
『ヒマラヤ 運命の山』 監督:ヨゼフ・フィルスマイアー 8月6日よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
本作『ヒマラヤ 運命の山』を観る前、主人公ラインホルト・メスナー本人に、来日記者会見の場でお目にかかる機会があった。人類初の8000m峰全14座登頂に成功したドイツ系イタリア人登山家は、66歳となった現在、主に作家として活動している。この席で飛び出した言葉の凄みに、圧倒されてしまった。
「自然は間違いを犯さない。間違いを犯すのは常に人間のほうだ」
さすが世界トップレベルの登山家、と感嘆すると同時に、ふと先日の大震災と、昨年に続く酷暑のことが頭をよぎった。自然の猛威を経験する2011年の自分たちにも何か通じるものがあるんじゃないか。そんな思いを抱いて、試写会に出かけた。
時は1970年。ヒマラヤ山脈登頂のうち、最難関と言われた「ナンガ・パルバート」のルパール壁の初登攀を目指したドイツ遠征隊を巡る実話をもとにした物語だ。
隊員の死、初登攀者の謎。当時ドイツ中を騒がせたスキャンダルを再現したフィルムは、本国で興行収入200万ドル突破の大ヒットを記録した。撮影のため3度現地に出向き、実際の登山と同じくベースキャンプまで設営して撮られた映像は圧巻。その迫力と臨場感に、ぐっとスクリーンに惹きつけられていく。
動揺しきった隊長に業を煮やし、規律無視の行動に出る兄弟。
若手の気鋭登山家として知られた主人公ラインホルト・メスナーと2歳年下の弟ギュンター・メスナーは、遠征隊長ヘルリヒコッファーのある思いを託されていた。隊長はかつて実兄を同ルートの登頂時に亡くした。注目度の高いこの登攀を成功させ、無念を晴らしてほしいと。
ストーリーは、山頂付近のシーンからぐっと盛り上がっていく。遠征隊は四合目にベースキャンプを組んだが、悪天候が続き、20日近く頂上へアタックできない状態が続く。時間、資金に限りのあるなか、遠征隊の焦りは最高潮に達した。いっぽう、出発前の勢いとは裏腹に、現場の状況に動揺しきった隊長は、安全第一の決断しか下さなくなってしまう。
業を煮やした兄弟は、規律無視の行動に出る。隊長の命令に意見し続け、ついには登頂へのゴーサインを強いるのだ。
しかし指示系統の崩れた遠征隊の中で、ラインホルトにとっても想定外の出来事が起きる。安全面を考慮し、単独での登攀を目指すつもりだったが、弟ギュンターが自分を追いかけてきたのだ。しかもサポート役として下山時の道標を打つ役割を放棄して。幼少時から兄弟で仲良く山を登り続けてきた反面、弟には「兄の影に隠れ続けるのは嫌だ」との思いがあった。兄もまた、愛する弟の思いを無下にはできなかった。そして6月27日、遂に2人は世界初登攀に成功する。