野球善哉BACK NUMBER
ヤクルトをCSに導いた石川雅規。
土壇場で勝敗を分けた「エース力」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/10/14 13:15
「デッドヒート」というには、物足りなかったかもしれない。
しかし最後の最後まで、どちらに転ぶか分からなかったセ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)進出争いは、一戦一戦ドギマギさせられたものだ。
結果、阪神にとっての今季最終戦となった10月9日のヤクルト-阪神戦で雌雄は決した。先発したヤクルトのエース・石川雅規が9月からの阪神との直接対決で、3連勝を果たしたのが大きかった。土壇場でのエースの堂々とした存在感が、後半戦になって失速したチームの支えになった。
9月初め、ヤクルトと阪神の直接対決はまだ9試合残っていた。
3位ヤクルトと4位阪神のゲーム差が接近し始めたのは、8月に入ってからのことである。夏の甲子園が終わりを告げる頃から、阪神は2勝1敗のペースで快調に飛ばす一方で、ヤクルトの8月の成績は7勝18敗、と大きく調子をおとしたのだ。
9月が始まる時点でヤクルトとの直接対決を9試合残していた阪神のCS進出が、現実味を帯びてきたのである。阪神の好調とヤクルトの不調。昨年の悪夢を逆の立場から演じていこうという気運が、関西メディアを中心に溢れていた。
さらに、9月3日の直接対決を迎えた時には、ヤクルトの絶対的クローザー・林昌勇が腰痛により登録を抹消。阪神側には風が吹き、ヤクルト側は絶望の淵に立たされた構図になっていた。
そんな状況下で、意地を見せたのがこの試合に先発した石川だった。
5回表に青木の適時打で1点を勝ち越したヤクルトはその後も、小刻みに点を重ねた。石川は11安打を浴びながらも2失点。134球を投げ抜く、完投劇だった。
マウンド上で怪我をしたにもかかわらず完投した石川。
なかでも彼がエースらしく映ったのは4回裏のピンチの場面である。石川はノーアウトから金本、新井に連打を浴びた後、ブラゼルの打球を左すねに当ててしまうが、治療を施したあと、再びマウンドに上がり気迫みなぎるピッチングを見せた。8番・狩野の遊撃ゴロの間に1点は失うものの、同点にとどめた。その鬼気迫るピッチングには驚かされた。ストレートが切れ、なにより石川が打者に向かっていたのだ。
これがエースの意地なのか――と。
そんな負傷がありながらの完投勝利にも、石川は試合後、平然とこういってのけた。
「今日は始めから完投するつもりでした。打球が足に当たりましたが、当ててもらったことで逆にパワーをもらい力が入りました」