野球善哉BACK NUMBER
ヤクルトをCSに導いた石川雅規。
土壇場で勝敗を分けた「エース力」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/10/14 13:15
ヤクルト・石川、阪神・安藤。エース対決の結果は?
次に石川が阪神と対戦したのはそれから約1カ月後の10月3日。このとき、両チームの立場は逆転し、ヤクルトは阪神を1ゲーム差で追っていた。阪神は先発に安藤を立てるという、まさにエース同士の直接対決だった。この時点では残り試合も少なかったため、阪神がこの試合に勝ってヤクルトを引き離せば、CS進出争いで大きくリードするはずだった。
試合はシーズン終盤ということもあり、両投手とも投球にキレを欠き、序盤から打ちあいの展開に。ヤクルトが先制するも、阪神が即座に逆転。3回表にヤクルトは青木の2点本塁打で勝ち越したが、4回裏に、阪神は矢野・平野のタイムリーで同点に追いついた。
この時点で、阪神の先発・安藤はすでにマウンドを降りていたが、石川はまだ投げ続けていた。5回から復調の兆しを見せて攻撃のリズムを作ると、6回表に鬼崎のプロ初本塁打などで2点を勝ち越し。残りの4イニングを石川がピシャリと抑えた。
「絶対、先にはマウンドを降りたくありませんでした」
敗戦が許されない中での完投勝利。「この1勝」という意味だけではなく「エース対決を制した」という石川の意地に魅せられた試合だった。
試合後、石川は、変わらぬ口ぶりで堂々とこう語った。
「野手陣がよく打ってくれて感謝です。序盤は腕が振れなかったのですが、途中修正してからよくなりました。阪神の先発がエースの安藤さんだったので、絶対、先にはマウンドを降りたくありませんでした」
この2戦があって、10月9日の最終決戦を迎えたのである。石川は完投こそ逃したが7回3分の1を投げ抜き、1失点(自責点0)で勝利投手。石川が終盤でみせた阪神戦での活躍が、そのまま結果に結びついた。
数字では館山に及ばずとも、勝負強さを見せたエース石川。
石川の今季の成績は13勝7敗、防御率3.54。さほど飛び抜けた数字ではない。チーム内で見ても、勝利数では館山に及ばないし、阪神戦に限っても4勝3敗と1勝を勝ち越しただけである。さらに驚くことに、石川の阪神戦防御率は5球団の中で一番悪い。つまり、石川は阪神をそれほど得意としているわけではないのだ。
それでも、大事な試合ではしっかり勝つ。9月3日は林昌勇がいない中での完投勝利だったし、10月3日は崖っぷちの中でエース対決を制しての完投勝利だった。終盤を迎えるまで石川は阪神戦の成績が1勝3敗だったのだから、この勝負強さこそが、石川のエースとしての力量だったのではないか。
ヤクルトと阪神のCS進出を懸けたデッドヒート。その差を分けたのは「安藤さんより先にマウンドを降りたくなかった」という石川のプライドだった。