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菊池以外も豊作の'09ドラフト総論。
~慢性的に不足する左腕と右打者~
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJMPA
posted2009/10/30 12:50
ドラフトは運命の一日である。
この日、プロを夢見る若者たちの運命が決まる。
昨年、阪神に1位指名された蕭一傑(しょう・いっけつ)は緊張で「吐きそうになった」と吐露していた。
今年はいったいどんなドラマが待っているのか……実は、彼らを追っかけている我々もその異様な雰囲気にいつも緊張しきっているのだが。
プロには左打者に好打者が多い=左腕が欲しい!
「左腕はどれだけおっても、足らんよ」
ここ数年、プロのスカウトからそんな嘆きを聞くことが多くなった。
ただ、この言葉の本当の意味を履き違えてはいけない。実は「左腕不足が深刻」ということではないからだ。むしろ、こう言った方がいいだろう。
“プロには左打者に好打者が多い”
その事情は、ことし2連覇を果たしたWBCを例に挙げてみても明白だ。
イチロー、川崎宗則、青木宣親、福留孝介、稲葉篤紀、小笠原道大、亀井義行、岩村明憲、阿部慎之助……と左の強打者がズラっと並ぶ。
例えば今年のパ・リーグにおけるリーディングヒッターを見てみると、鉄平(楽天)や同2位の坂口智隆(オリックス)、今シーズンにブレークした糸井嘉男(日ハム)や長谷川勇也(ソフトバンク)も左打ち。右打線を形成しているのは西武と中日くらいのもので、阪神に至っては1番~4番まで左打者だけで組んでいたことさえあった。
「左」の好打者に対抗する投手をと考え、スカウトたちは「左投手」の需要を口にしているに過ぎないのだ。
圧倒的な評価を受けた“待望の左腕”菊池雄星。
この春のセンバツ。
花巻東の菊池雄星が登場した時、スカウトたちの鼻の下は大きく伸びたものだ。「待ち焦がれていた左腕」として、菊池の評価は群を抜いていた。
その菊池は6球団の競合になった。彼の力量ももちろんだが、さらに“左腕”に対する大きすぎる需要がそれを加速させているのだ。
菊池は抽選により西武が交渉権を獲得。左腕の需要が高まる中、西武は大きな獲物をつかんだと言えるだろう。
とはいえ、今回のドラフトの注目は菊池の動向だけではない。むしろ、菊池を意識しながらも他候補をどううまく獲得していくか……。スカウトの眼力やチーム戦略が問われたのはむしろ「菊池以外の選手」を見る目だったといえる。