野球善哉BACK NUMBER
帝京が見せた優勝候補のプライド。
敵エースの決め球を攻略しろ!
<'09年夏の高校野球レポート>
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/08/17 13:00
帝京の4番・佐藤が山田の心を打ち砕いた瞬間。
1番・金子竜也は8球粘った後のやや中に入ったスライダーを強振、右中間へと運んだ。快足を飛ばして、無死二塁の好機を作る。2番・田口公貴の犠打は山田の野選を誘い、無死・一、三塁。3番・平原庸多は三振に倒れるも、4番・佐藤秀栄の打席で1走・田口が盗塁を決めて、1死・二、三塁とする。
2-1からの4球目。山田はインコース低めにスライダーを投げ込んだが、空振りを取れそうなこの絶妙な球を佐藤が上手くはじき返し、中前適時打を放った。
帝京が1点を先制した。
敵エースの得意球に絞って集中砲火を浴びせていく。
このあと、原口文仁のセカンドゴロの間に1点を追加した帝京は、3回表にも3点を挙げ、試合の大勢をこの時点で決めてしまった。
口火を切った金子が打ったのがスライダーなら、適時打を放った佐藤の中前安打もスライダーである。どちらも、強引に引っ張りにかかるのではなく、体を開かずにセンター方向へ打ち返すという見事な技術だった。
金子は「相手の得意球を打って攻略したいと思っていました。球は真ん中でしたが、センター方向を狙って、上手く打てました」。4番・佐藤は「プライドというよりも、本能で打ちました。金子が出て、自分が打てたので、配球の面でも相手は難しくなったと思う。甘い球を見逃さずに打てたのは大きい」と胸を張った。
計算通りに山田を攻略した帝京・前田監督、強気の采配。
スライダーを山田攻略のポイントに挙げていた前田監督も、選手たちの活躍に手ごたえを口にした。
「山田君くらいの素晴らしい投手を前にして、ウチがいつもどおりに打てるか。不安と期待がある中での戦いだった。金子に三振をされると、これはきついなぁと思っていましたが、あそこは粘って良く打ってくれました。あれは大きい。山田君を打てたことは自信になる」
勝負だけを考えたとき、打ち難い相手投手の得意球は捨てて、打ちやすい球を選ぶという手段があったはずだが、帝京はそうではなく、山田の得意球であるスライダーをあえて、打ちにいった。それを果たしたバッティング技術も見事だが、狙いに行った帝京の姿勢に、今大会の優勝候補、通算3度の全国制覇を誇る強豪校のプライドを感じずにはいられなかった。