MLB Column from WestBACK NUMBER

日本のベテラン勢を支える信念。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/08/29 00:00

日本のベテラン勢を支える信念。<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 8月に入ってからの出張先を見ると、ノーフォーク、コロンバス、フィラデルフィア、トレド──と、メジャーでは馴染みのない街の名前が続いている。野茂投手がヤンキースとマイナー契約を結んで以来、マイナーリーグの取材が中心になっているためだ。2005年シーズンが開幕した時点で、こんな取材生活がやって来るとは想像もしていなかった。

 なかでも、──自分自身は取材に回らなかったのだが──8月16日のコロンバス対ノーフォーク戦は、私のみならずほとんどの日本人報道陣にとって何とも予想外の出来事だったかもしれない。野茂投手ばかりか、相手チームに石井一久投手、高津臣吾投手と、何と3人の日本人選手が顔を揃えることになったのだ。メジャーでは3人以上の日本人選手が顔を揃えるのは珍しくなくなったが、さすがに3Aで実現したのは今回が初めて。全体的に日本人選手の不振が続いていた今シーズンをまさに象徴している場面だった。

 改めて強調する必要もないのだが、日本人選手に限らず、メジャーで長年に渡り成功を続けるのは簡単なことではない。以前から石井投手は「プレーを続ければ続けるだけ、難しくなっていく世界」と繰り返してきたし、野茂投手の代理人の団野村氏も、日米通算200勝達成を控えた野茂投手に対し、「成績はともかく、この世界で10年間やってきたことが本当に凄いことだと思う」と称賛を惜しまなかった。野茂投手のメジャー挑戦以来、取材を続けているが、多くの40 歳前後のベテラン選手が第一線で活躍するのを目の当たりにする一方で、眩いばかりの光を放ち流星のごとくスターダムにのし上がりながら、知らぬ間に消えていく選手たちを限りなく見てきたのも事実なのだ。

 ヤンキースでメジャー再昇格を目指す野茂投手だが、すでに日本でも報じられているように、厳しい状況が続いている。あれだけ窮状が続いていたヤンキース先発陣はどん底の危機を脱し、野茂投手を緊急で必要とする状態ではなくなった。

 「(昇格は)自分が決めることではないですから。これからは上にしろ、下にしろ中4日で回っていける(状態になった)ので」

 コロンバス合流後3試合目登板後、野茂投手は、デビルレイズ解雇後の17日間のブランクを解消できたとしながらも、即昇格に関しては焦る様子は微塵もみせなかった。場所はどこであれ、自分が与えられた場所で投げ続けることだけしか、考えていないようだ。

 確かに現状を考えれば、3Aが終了する9月5日で野茂投手の今シーズンは終わりを告げる可能性は十分にある。だからといって、野茂投手のメジャー人生がこのまま幕を引くというのでは決してない。前述通り、生き残るのが難しいメジャーであるが、ベテラン選手たちに何度も再挑戦のチャンスを与えてくれるのもメジャーなのだ。

 今シーズンの野茂投手もデビルレイズとマイナー契約を結び、招待選手枠でキャンプに参加し開幕メジャーを勝ち取った。メジャーにとって、こんなケースは日常茶飯事だ。例えば、現在メジャー最年長のフリオ・フランコ選手(ブレーブス)やカルロス・バイエガ選手(ナショナルズ)は、一度メジャー球団から三行半を突きつけられながら、メキシコ・リーグでプレーをしながら再びメジャーに這い上がってきた。さらにトッド・プラット選手(フィリーズ)に至っては、一度引退し少年野球の監督を務めていたのを、一念発起で現役続行を決め、復活を遂げている。

 1ヶ月ほど前、Number本誌上で野茂投手について執筆する機会があった。その際本人を直撃したときに感じたことは、まだまだ投げ続けたいという強い “想い”だった。昨年、今年と限界説を問う報道が減ることはない。だが野茂投手は至って無頓着な姿勢を貫いている。ファンが直接自分の投球を見てくれさえすれば、自分をわかってもらえるという信念があるからだ。

 本誌でも明らかにしているように、野茂投手が限界だとは微塵たりとも思ったことはない。確かに、野茂投手と同年代の選手をみてもわかるように、毎年のように活躍をするのは難しい年齢に達したのは間違いない。しかし前述した選手たちのように、野茂投手に適材適所を与えられるチームは必ずあると信じている。

 つい先日、休暇で日本に戻り、久しぶりに吉井投手と再会を果たした。自分を信じて投げ続け、見事な復活を遂げた吉井投手の元気な姿を見るにつけ、自分の考えをさらに強固なものにした。

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