セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ユベントスの逆襲が始まる。
~フェラーラが注入する「ユーベ魂」~
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2009/08/09 08:00
チームの顔、デル・ピエーロも今季のユーベには手応えを感じている
プレシーズンのユベントスが好調だ。8月2日までセビージャで開催されていたピースカップ・トーナメントで準優勝。決勝ではアストンビラにPK負けを喫したが、今季CLに出場するスペイン勢2チームに連勝、とりわけC・ロナウド擁する“新銀河系”レアル・マドリーを破ったことは、チームに大きな手応えと自信を与えた。あのカルチョ・スキャンダルから3年。ユベントスは、本当に再び欧州の最前線へと返り咲こうとしているのだろうか。
剥奪されたスクデットの奪還が最優先だ。
PKでミランに敗れた02-03年シーズンの決勝以来、CLでのビアンコ・ネッロ(白黒ユニフォームの意=ユベントスを指す)の成績は芳しくない。セリエBに降格した06-07年と出場資格のなかった翌シーズンの2季をのぞくと、ベスト16とベスト8がそれぞれ2度。CLの決勝トーナメントは、16強すべてが選りすぐりの強豪揃いゆえに仕方ない部分もあるが、ユベントスには準決勝以上を狙う地力がない、と欧州で見なされているのも事実だ。
それでも今季は、一線級のブラジル代表MF2人、ジエゴ(前所属ブレーメン)とフェリペ・メロ(前所属フィオレンティーナ)を獲得した。「(FWアマウリを合わせて)ピッチに3人のブラジル人がいるなんて、ユーベの歴史で記憶にない。想像以上に俺たちの戦力はアップした」と言うブッフォンは、「これでインテルの背中が見えた」と付け加える。ユベントスにとって、国内最大のライバルを倒し、スキャンダルによって剥奪されたスクデットを奪回することが、欧州戦線よりもまず、優先すべき目標であることを意味している。
“ユーベ魂”を再注入できるのはフェラーラしかいない。
創設113年目の新シーズンを迎えるユベントスにとって、何よりの福音は新指揮官フェラーラの存在だろう。昨季残り2節の時点で、前監督ラニエリの求心力低下によってバラバラになったチームを急遽引き継いだかつての名DFは、タイムアップの笛まで絶対にあきらめない“ユーベ魂”とも呼ぶべきものを再注入した。今シーズンの指標となるであろう、彼の求める「コンパクトにまとまり、集中力を切らさず、統制のとれたチーム」とは、自身が現役だった頃の常勝ユーベそのものだ。現役時代、晩年に至るまでプロビンチャ(地方チーム)相手でもプレーに一切手を抜かず、常勝軍団であることの責任の重さを周囲に示していた、まさにチームの精神的支柱。復帰した古参カンナバーロやFWジョビンコら若手と気心は知れているが、監督となった今、グラウンドで弛緩したところは見せない。選手を統べる術を誰よりわきまえ、リッピとカペッロという2人の家長から厳格さを受け継いだ長兄が現場に帰ってきたのだ。
夏季キャンプではチームの根幹であるタフな守備を取り戻すべく、フィジカル向上メニューに力を割いた。攻撃面でジエゴとの共存を不安視されるデル・ピエーロだが、レアル戦の勝利の後、こう言って自信をのぞかせた。
「プレシーズンマッチだから意味がない、というのは誤りだ。この勝利は何かの予兆だよ。今季のユーベはどんなハイレベルのクラブでも相手にできる」
2年後の新スタジアム完成までに再建は可能か。
不安材料は意外なところにある。一昨年、意見の相違から最高経営会議メンバーを辞したマルコ・タルデッリ(82年スペインW杯優勝メンバー/現アイルランド代表副監督)は「(国際ビジネスとマーケティングの専門家だけで固められた)今のユーベ首脳陣にはサッカーを理解している人間が誰一人いない。これは恐ろしいハンデだ」と警鐘を鳴らす。ビジネス面での健全化のみを考える首脳陣とサッカーの現場の乖離は、成績だけでなくサポーター感情にも悪影響を及ぼす。
セリエB時代を率いたかつての闘将デシャン(現マルセイユ監督)は昨季末の低迷時に「そもそも、ああいう形で2部に落とされたチームが2、3年で再建できるわけがない。欧州タイトルを争えるレベルに戻るまで、あと5年はかかるだろう」と、古巣への愛情ゆえに厳しい言葉を投げかけている。
旧デッレ・アルピ跡地に、総工費1億500万ユーロをかけた自前の新スタジアム工事が始まった。こけら落としは2年後の2011年夏だが、そのとき「貴婦人」は、新たな舞台で欧州の主役を張れるだろうか。