MLB Column from USABACK NUMBER
オールスターゲームで犯した、
バラク・オバマの「ルール違反」。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2009/07/25 08:00
試合前のクラブハウスのロッカールーム、偶然のきっかけによってオバマからサインボールをもらったイチローも大興奮
「例外はナショナルズ」発言で、エラーを重ねたオバマ。
オバマは「今日は楽しむためにやってきた」と、その後も放送席で野球談義にふけったが、ガードが下がって油断したのか、再度大統領として守るべきルールを破る失策を犯してしまった。MLBの現況について意見を聞かれた際に、「多くのチームのファンが希望を持てるという意味で、戦力が均衡していることは素晴らしい」としたところまではよかったのに、「ただ例外はナショナルズ」とやって、「特定チームをけなしてはいけない」というルールをも破ってしまったのである。
オバマは、自分のルール破りに気がつき、慌てて話題を変えていたが、MLB最弱チーム、ナショナルズの現状が惨憺たるものであることは隠しようのない事実であり、ナショナルズのファンがカンカンに怒るということはないだろう。
ナショナルズの命運を握るのは“スーパーエージェント”ボラス!
それどころか、ナショナルズの場合、最弱チームであることが、「未来に希望が持てる」理由となっているので説明しよう。
MLBのドラフトは完全ウェーバー制。前シーズンの最下位チームにはトップ指名権が与えられる決まりとなっている。ナショナルズは、6月のドラフトで「史上最高大学投手」の評判をとるスティーブン・ストラスバーグを指名したばかりであるし、来年のドラフトでは、天才少年打者ブライス・ハーパー(現在16歳)をトップ指名すると言われている(ハーパーの天才ぶりについては別の場所に書いたので、興味のある方はご参照いただきたい)。
しかし、ここで問題なのは、ストラスバーグも、ハーパーも、「スーパーエージェント」の異名を持つスコット・ボラス(そう、A・ロッド、松坂大輔のエージェントである、あのボラスである)が「アドバイザー」として後ろに控えていることである。ボラスが「史上最高の選手には史上最高の契約金を」と要求するのは火を見るよりも明らかであり、両選手とも入団交渉が難航することは間違いない。
オバマには「The Audacity Of Hope(邦題『合衆国再生―大いなる希望を抱いて』)」という著書がある。しかし、いかなオバマをもってしても、「希望を持つことができない唯一のチーム」ナショナルズのファンに対し、明日への希望を保証することは不可能である。なぜなら、ナショナルズ・ファンが明日への希望を持つことができるかどうか、その鍵を握るのは、大統領ではなくボラスなのだから……。