MLB Column from USABACK NUMBER
オールスターゲームで犯した、
バラク・オバマの「ルール違反」。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2009/07/25 08:00
試合前のクラブハウスのロッカールーム、偶然のきっかけによってオバマからサインボールをもらったイチローも大興奮
今年のオールスター、始球式を務めたバラク・オバマ大統領に一部ファンがブーイングを浴びせたことに、日本のファンも気がつかれたのではないだろうか。
どこかの国の首相とは違って高支持率を誇るオバマ大統領。いったい、なぜ、オールスター始球式の晴れ舞台でブーイングを浴びせられたのかというと、それは、大統領として守るべき「暗黙のルール」に違反したからに他ならない。
カブス・ファンを激怒させた大統領のジャケット。
これまで、歴代大統領は、「国の指導者である以上、特定チームをあからさまに応援してはいけないし、逆に、特定チームをけなしたり腐したりしてもいけない」というルールを忠実に守ってきた。しかし、オバマはこのルールを破って、大胆にも自分がファンであるホワイトソックスのジャケットを着て、始球式に登場したのである。
ともにシカゴを本拠地とするホワイトソックスとカブス、両チームのファンの間にお互いを敵視し合う伝統があることについては、これまで何度も書いてきた。オールスターでオバマをブーイングしたのは主にカブス・ファンだったと信じられているが、大統領として守るべき暗黙のルールを破って、これみよがしに憎むべきホワイトソックスのジャケットを着て現れたのだから腹を立てたのは無理もない。相手が大統領であろうとも、ブーイングせずにはいられなかったのである。
大統領の言い訳は「妻がcuteと言ってくれるから」。
始球式後、オバマは、試合を中継するFOXテレビの放送席に現れたが、当然のことながら「ルール破り」が最初の話題となった。
オバマは、「理由その一。私がホワイトソックス・ファンであることは周知の事実。今さら隠す理由はない。理由その二。ホワイトソックスのジャケットを着ていると、妻が『かわいい(cute)』と言ってくれるから」とルールを破った理由を説明した。
今のところ、カブス・ファンを除いて、オバマがルールを破ったことについて目くじらを立てる向きは少ない。それどころか、通算セーブ最多記録の持ち主、トレバー・ホフマン(ブルワース)のように、「自由社会のリーダーは大胆でないと務まらない」と、自分がホワイトソックス・ファンであることをアピールしたオバマの豪胆さを称賛する向きさえあるのである。
とはいっても、オバマも、カブス・ファンのリアクションは気になったと見えて、「私はホワイトソックス・ファンではあるが、カブス・ヘイターではない」と、放送席で強調した。しかし、オバマに、カブス・ファンを腐す発言をした前科があることは以前に本欄でも記した通りであり、オバマの説明を額面通りに受け入れるカブス・ファンは少ないのではないだろうか。