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男子陸上100mに新ヒーロー誕生!
20歳の江里口匡史、世界への挑戦。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTamon Matsuzono
posted2009/07/06 06:00
最近、「世代交代」という言葉をよく耳にする。選手から、コーチから、競技を問わずである。五輪は競技生活の節目となる大会である。ひとつの大会が終われば、引退する選手も少なからずいる。反対側からみれば、出場を逃し雪辱を期す選手や若い世代の選手にとってはチャンスである。また、後を継ぐ選手が出てこなければ、その競技は衰退してしまう。
歴代4位の記録で頭角を現した江里口匡史。
6月25日から28日にかけて、陸上日本選手権が行なわれた。最終日、注目を集めた男女100mは、それぞれのエースの塚原直貴、福島千里が決勝を棄権したが、間隙を縫うように名乗りを上げた選手がいる。早稲田大学3年の江里口匡史である。
前日の予選で10秒14の自己新記録の走りをみせ、迎えたこの日の準決勝。江里口は小気味よく加速すると先頭でゴールする。その瞬間、観客席は驚きでどよめいた。10秒07。タイムを確認した江里口も、右手でガッツポーズを見せた。日本の歴代記録は、トップから伊東浩司の10秒00、朝原宣治の10秒02、末続慎吾10秒03。そして江里口の出したタイムは4番目にランクされる、好記録であり、塚原のベスト記録10秒09を上回るものだったのである。
五輪代表落選の悔しさが江里口を成長させた。
決勝では10秒14だったが、日本選手権初優勝。江里口は、興奮さめやらぬような表情で語った。
「(準決勝のタイムは)出したというより、出ちゃったという感じです」
「(優勝は)まだ実感がわかないです」
そう本人は言うものの、江里口はもともと、高校時代から全国大会で活躍し、注目を集める存在だった。早稲田大学進学後も、1年生にして日本学生対校選手権で優勝。2年時にも、北京五輪4×100mリレーの補欠メンバーだった筑波大学3年の斎藤仁志を抑え連覇を果たした実績をもつ。
キャリアを見れば順調に成長してきたかのようにみえる江里口だが、昨シーズンの春先、故障している。その影響もあって、狙っていた北京五輪代表の夢はかなわず、悔しい思いをしたという。