Column from EnglandBACK NUMBER
テベス移籍を巡る、ウェストハム、シェフィールド、マンUの仁義なき戦い
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMatthew Peters/Manchester United via Getty Images/AFLO
posted2007/07/24 00:00
プレミアシップの各クラブが、プレシーズンに突入しようかという7月初旬、ようやく昨シーズンの残留争いに決着がついた。法廷で前代未聞の“延長戦”を演じたのは、シェフィールドとウェストハム。ちなみにシェフィールドは最終節でウィガンに敗れ、プレミアシップ18位(勝ち点38/得失点差「−23」)で降格。同節でマンチェスター・Uに勝利したウェストハムは、15位(勝ち点41/得失点差「−24」)で残留という形になっていた。
これで怒りが収まらないのが、シェフィールドである。ご承知のようにウェストハムは、テベスとマスチェラーノの移籍を巡るリーグ規約違反(選手以外の第3者との契約締結)で、シーズン終盤に約13億円の罰金を言い渡されている。シェフィールドは、この制裁が甘すぎるとして、プレミアシップに審議のやり直しを求めていた。シェフィールドはウェストハムのポイント剥奪を求めると同時に、(フルハムとの連名で)テベスの選手登録そのものが抹消されるべきだったと主張。これが通れば、ウェストハムはポイントを剥奪されて降格となり、逆にシェフィールドが残留できるはずだった。
しかし、今月3日に下された仲裁裁判の結果はシェフィールドにとって厳しいものとなった。仲裁裁判所は「リーグによる判断が、誤り、あるいは不合理であったとは言い難い」という判決を下したのである。それはシェフィールドのプレミアシップ残留への望みが、事実上消滅したことを意味していた。
もちろん、ホームでのシーズン最終日に、涙にくれたシェフィールド・ファンは気の毒に思う。また、「よぉ、貧相な野郎ども!」と悪態をつきながら試合後の会見場に現れ、言いたい放題で発言していたウォーノック監督(シーズン終了後に辞任)にお目にかかれなくなるのも残念だ。さらに言うなら、プレミアシップの懲戒委員会や、仲裁裁判を担当した判事が口をそろえたように、「(訴訟の)時期が早ければポイント剥奪が妥当だった」のかもしれない。
だが、中立的な立場にある著者としては、正直、判決にはホッとしている。裁判によって降格・残留の運命が決まるという幕切れは釈然としないし、やはり「ピッチ上での結果が全て」だと思うからだ。(シェフィールドは上訴に踏み切り、“不当に降格の憂き目に会った”ことに関して120億円を上回る賠償請求を起こしたが、結局、高等法院でも敗訴している。クラブ側は、「引き続き、リーグとウェストハムを相手に法的手段を検討する」との公式見解を発表しているが、その見通しは極めて不明だ)
ただし、ウェストハムも枕を高くして眠れるわけではない。テベスのマンチェスター・Uへの移籍話を巡って、今度は自分たちが窮地に立たされる羽目になってしまった。
テベスは、自身の所有権を持つジョーラブシアン氏を通じ、マンチェスター・Uとは既に合意済み。マンチェスター・Uも、(1月に)リバプールがマスチェラーノを獲得したのと同じ手続きを踏んでいるとして正当性を主張している。これに対してウェストハムは、テベスは自軍の登録選手であると反論。どちらも譲歩する姿勢を見せていないため、この一件は、FAやFIFAが調停しない限り、法廷闘争にもつれ込む可能性が高い。
しかもテベスのマンチェスター・Uへの移籍が成立すれば、シェフィールドが再び法廷に登場してくるのは必至だ。ウェストハムの意向を無視するような形で移籍話がまとまった場合、テベスはウェストハムの正規の登録選手だったとする判断が覆されるからである。つまり、マンチェスター・Uへの移籍成立=ウェストハムによる保有権否定ということになり、テベスの保有権を前提にしたウェストハムの残留決定とシェフィールドの降格決定まで、議論は逆戻りすることになる。
法律と金が絡んだこの手の話には、いつもながらうんざりさせられる。せめてもの救いは、5月のCL決勝でリバプールが“勝たなかった”ことだろうか。リバプールが優勝していれば、ミランがリバプールによるマスチェラーノの登録を不当として、もう1つの“延長戦”が繰り広げられていたかもしれないのだから。