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フットボールの伝統を
引き継ぐものたち。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/03/23 00:00

フットボールの伝統を引き継ぐものたち。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 プロの経験もない靴のセールスマンだったアリゴ・サッキが、ACミランやイタリア代表の監督を指揮するまでのサクセスストーリーは有名な話。そんな無名のサッキをACミランに引き抜いたのは、ベルルスコーニだった。ベルルスコーニも若き日は歌手や掃除機の販売業で食いつないでいたという。いまではACミランの会長を辞して、イタリアの首相に専念している。

 ベルルスコーニとサッキ。彼らがACミランで起こした革命は、いまも多くの教え子たちが引き継いでいる。ミラン黄金期と呼ばれた80年代後半にはライカールト、ファン・バステン、フリット、アンチェロッティがいた。それぞれが指導者の道を進むなかで、サッキから受けた影響は計り知れないだろう。

 ちょうどその頃、バルセロナではヨハン・クライフのドリーム・チームが生まれた。クライフといえば、スペインに革命を起こしたオランダ人だ。

 しかし、クライフはACミランとは悪縁で結ばれている。アヤックス現役時代は、70−71シーズンのチャンピオンズ・カップから3連覇。91−92シーズンのバルサ監督時代にも欧州を牛耳ってはいるけど、ACミランとは分が悪かった。68−69シーズン、アヤックスでプレーしていたクライフは、チャンピオンズ・カップ決勝で1対4の大敗を喫する。さらに、93−94シーズンチャンピオンズリーグ決勝では、ドリーム・チーム、バルサを率いてアテネに乗り込んだクライフ監督は、カペッロのACミランに4ゴールも決められて、優勝を奪われた。

 3月15日、アルベルティーニの引退試合には、ファン・バステン、フリット、バレージ、デサイー、ボバン、パパンといったミラン黄金時代のサッキの教え子たちが登場した。対戦相手はアルベルティーニが元バルサだった関係で、クライフのドリーム・チーム+ライカールト。前日会見には、クライフ、ライカールト、アンチェロッティ、カペッロの4人がひとつのテーブルに揃う。スペイン人記者からアンチェロッティに向けて鋭い質問が飛んだ。レアル・マドリーの次期監督候補にあがっているけど、と。アンチェロッティは「ミランとの契約が残っている」と否定しながらも、隣に座っていたバルセロナ監督、ライカールトのクビを絞めて笑わせもした。彼らふたりはサッキの下で中盤を担ったコンビでもある。クライフとカペッロも笑わずにはいられない。

 夢の競演にサン・シーロは大きな盛り上がりを見せたが、ブーイングを浴びた人物が一人だけいた。この日、前半のACミランの指揮を執ったカペッロだ。なぜなら、いまはユベントスのボスだから……。

 試合は、アルベルティーニのFKやファン・バステンのヘディングなどでゴールを重ねたACミランが、3対2で勝利。現在、過去、未来が絡み合った偉大な夜は、アルベルティーニの涙で締めくくられた。

 「ありがとうミラン、ありがとうバルセロナ(男泣き)」

 今後、アルベルティーニは指導者の道を進むという。ライカールトとファン・バステンはアヤックスでクライフ監督の指導を受けてもいるから、サッキとヨハンから「ゾーン・ディフェンス」と「トータル・フットボール」を学んだ数少ない選手だ。アルベルティーニもまた、サッキにはじまりカペッロ、アンチェロッティ、ライカールトのフットボールを体験してきた。

 現役時代にどんな監督と同じ釜の飯を食うかで、その人物のサッカー哲学は決まってくるのだろう。もちろん例外もある。モウリーニョなどは以前、「攻撃はロブソンで、守備はファン・ハールから学んだ」と、引退後にサッカーを学んだという話をしていた。あの性格だから、もう忘れているだろうけど……。

 ただ、アルベルティーニが吸収してきたフットボールは、そうそう簡単に学べるものではない。靴のセールスマン監督が見出した才能は、もう数年もすれば、名監督としてスペイン、イタリアに革命を起こす可能性を秘めている。

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