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イバニェスの爆発とイチローの不運。
~メジャーを席巻するアラフォー打者~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2009/06/26 06:00
イバニェスを獲得し、2年連続世界一を狙うフィリーズは6月21日現在、ナ・リーグ東地区首位を快走中
イチローの連続記録が途切れるかもしれない。といっても、連続200本安打のことではない。危ないのは、9年連続100得点のほうだ。2009年6月20日現在、60試合に出場して、264打数29得点。このペースで進み、シーズン終了時に打数が650に達するとしても、得点はせいぜい70程度。マリナーズ入団以来8年間にわたって積み重ねてきた連続100得点記録の更新には、早くも黄信号が灯ったといって過言ではない。
イチローが出塁できないから、ではない。同日現在、彼は安打数も打率もア・リーグの首位を走っている。
打てないのは、後続の打者だ。今季新加入のブラニヤンを唯一の例外として,マリナーズ打線は大リーグ30球団中、パドレスと並んで最も貧しい。ロペスもベルトレもグリフィー・ジュニアもまるで音無しの構えだ。このまま進めば、年間チーム得点は610程度で終わるのではないか。こんなに稼ぎの悪い球団といえば、近年では'02年と'03年のタイガースくらいしか思い浮かばない。
移籍しても絶好調。MVP筆頭候補の37歳、イバニェス。
となると、否応なく脳裡に明滅するのはラウル・イバニェスの名前だ。今季マリナーズを去ってフィリーズに移ったイバニェスは、オールスターの中間投票で,現在ナ・リーグ外野手部門のトップを走っている。
当然、数字も素晴らしい。6月に入ってからはさすがにややペースダウンしたものの(18日以降は故障者リスト入り)、62試合を経過したところで78安打、22本塁打、59打点は文句のつけようがないものだ。もしこの絶好調をシーズン終盤まで継続できたとしたら、207安打、57本塁打、154打点というMVP確実の結果が残ることになる。
イバニェスが残留していれば、イチローの連続記録達成は……。
イバニェスは極端な遅咲きの選手だ。1972年6月生まれだから、今年37歳。大リーグの試合にときどき出られるようになったのが26歳。一度クビになりかけたのが28歳。年間打数が500に近づいたのが30歳。ここから先の伸びしろは、通常さして期待できない。
ところが、彼は伸びた。マリナーズの試合に注目してきた方ならご存じのように、'06年(34歳)から'08年(36歳)までの3年間、イバニェスは連続100打点以上を叩き出した(123/105/110打点)。
年間を通してコンスタントに打つわけではないが、いったん波に乗ると、彼の好調は50試合ほど持続する。昨'08年も、7月上旬から9月上旬までの2カ月間で3割7分台の打率と13本の本塁打を記録している。本拠地だったセーフコ・フィールドが大リーグ屈指のピッチャーズ・パーク(投手有利の球場)であることを思えば、この数字には相当の価値がある。FAの資格を取得したイバニェスに、フィリーズが3年総額3150万ドル(約30億円)もの巨額を投じたのも、あながち無謀な投資とは思えない。
というわけで、イチローはなかなかホームに還れなくなってしまったが、遅咲きイバニェスの爆発は、今季前半戦の一大トピックとなった。ラミレスやソーサのステロイド疑惑がたてつづけに立証されている時期だけに、地道で実直な彼の開花はグッドニュースだ。願わくは、好漢イバニェスのバットが後半戦も火を噴きますように。