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<欧州を震撼させたニッポン人> 川島永嗣 「大量失点でMVPの理由」
text by
中田徹Toru Nakata
photograph byAFLO
posted2011/05/31 06:01
「サポーターからの絶対的な信頼」を勝ちとるまで。
「我々にはクヨビッチという、昨季の2部リーグ優勝に貢献し、絶対的な信頼を寄せていたGKがいた。実力は川島よりクヨビッチが上と見ていたから、『川島がゴールを守るのは、きっと商業的な理由だろう』と思っていた。負け続けていたから、チームにとっても川島にとっても難しい時期だった」
それでも、どんなに点差を広げられても諦めずにビッグセーブを連発する川島に対し、徐々にサポーターたちも「これはいいキーパーだ」と気付きだした。
10月、川島は足の筋肉を痛め4試合欠場した。その間、クヨビッチがゴールを守ったが、11月に入って負傷が癒えた川島は当然のようにレギュラーポジションを取り戻していた。
「この時期にはすでにステータスは川島の方が上になっていたから、サポーターも川島の出場を当たり前と思っていた」
川島も、「サポーターからの絶対的な信頼を感じたのは、けがから復帰したころ」と話してくれたことがある。川島とサポーターが相思相愛になった秋だった。
震災直後、リールセのスタンドには8000枚の日の丸が翻った。
3月11日、東日本大震災が起こった。数日後、チーム関係者からノエルに電話があった。
「川島の気持ちが完全にダウンしてしまった。何とかしてやって欲しい」
観客席を日の丸で埋めよう――そう思い立ったノエルはスポンサーをすぐに探し、試合当日のスタンドには8000枚の日の丸が翻った。
「たった3日間ですべてをやったよ。これは川島へのリスペクトの表れでもあったが、純粋に“人”としてしたことだった。人の命はフットボールよりも貴いものだからね」
この試合はリーグ最終戦のクラブ・ブルージュ戦だったが、川島は安定したプレイでチームを0-0の引き分けに導いた。
「奇跡だった。この瞬間、今季初めてリールセは14位に浮上し、降格を免れたのだから」
W杯で日本のヒーローとなった川島を、リールセのサポーターはまだ無名のGKとして見ていた。
「川島には来季もリールセに残って欲しいけど、きっとプレミアに行くだろう。川島はこれからキャリアを築いていく選手。5年後にはきっとすごく有名なGKになっているだろう。その時我々は言うんだ。『川島のキャリアの始まりはリールセだったんだ』と」
川島永嗣(かわしま えいじ)
1983年3月20日、埼玉県生まれ。'01年、浦和東高校から大宮アルディージャに加入。'08年、東アジア選手権でA代表デビュー。'10年7月、リールセSKに移籍。185cm、80kg