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レアル・マドリーは日本に来なくていい。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/05/21 00:00

レアル・マドリーは日本に来なくていい。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 レアル・マドリーはわざと負けている――という噂がある。

 元横浜マリノスのフリオ・サリーナスは証言する。

「日本のカップ戦(天皇杯)の決勝は正月に行われるんだよ。外国人選手たちは誰もそんな日に試合をしたくない。みんな早く負けようとしていたよ。今のレアル・マドリーも同じじゃないかな」。

 5月16日、それまでわずか4勝、むろんダントツの最下位、2部落ちのムルシアにも敗れ、レアル・マドリーは3位に転落した。リーグ戦4連敗は、100年を超すクラブの歴史上、初めてだ。が、その屈辱も、アジア・アメリカへツアーに行かなくて済むなら我慢できる。つまり、8月のチャンピオンズリーグ予選を口実にして、ツアーをキャンセルするため、わざと3位になったのではないか、と。

 これはむろん冗談だ。

 サリーナスは天皇杯5試合で3点をあげている。彼特有のブラックユーモアだったのだろう。

 が、今のレアル・マドリーを見ていると、笑い話に聞こえない。

 たとえば、前半3分のムルシアの先制点――。

 相手のスローインに誰も守備に行かず、完全にフリーでセンタリングを上げられている。

 スローインの受け手をマークしないことを、“小学生以下のプレー”と断じても、誰も文句は言えまい。私がスペインで少年チームの監督をして6年になるが、今どき子供のリーグ(10~11歳)でもめったに見ない光景だ。

 マーカーのはずのベッカムは、10メートルほど後方でぼんやり眺めていた。頭上を越えたボールがヘディングされ、ゴールネットを揺らすのも、他人事のように見ていたのではないか。無気力、無関心。心は早や、バケーションといったところか。

 果たして35分、ベッカムは一足早くシーズンを終えた。

「イホ・デ・プ××」と線審を罵り、一発退場を食らったのだ。「イホ・デ・プ××」は、スペイン語で最も酷い罵り言葉だ。意味は誰かに聞いてほしい。

 レッドカードを見たベッカムは頭を抱え、まるで不当に退場させられたかのように、猛烈に抗議した。見苦しい。テレビカメラは、ちゃんとアップで彼の唇の動きをとらえていたのだ。はっきり言っている。100%間違いない。

 ベッカムはスペイン語のレッスンを「退屈だから」と放棄、ケイロス監督の指示もからっきし理解できないという話だったが、ちゃんとできるじゃないか。シーズン当初、大騒ぎされた“言葉の壁”だが、心配ご無用。彼のスペイン語は着実に進歩している。ただ、使う場面をもう少し考えた方がいい。

 バケーション入りしたのは、ベッカムだけではない。

 その15分後、ジダンはユベントス時代のあの伝説の頭突きを披露。5枚目のイエローカードをもらった。ボールの無いプレーでの暴力行為だから、一発退場になってもおかしくなかった。2週間前のデポルティーボ戦で退場させられ、「仲間に迷惑をかけた」と反省したのは嘘だったのか。

 さらに途中交代のグティは、すぐさま5枚目のイエローカードをもらってきた。これもボールの無いところでのプレーで、レッドカードでも文句は言えなかった。その際、アピールどころか、審判にウインクするサービスぶり。ありゃ、わざとではないのか。

 そもそも、監督批判をしたグティをベンチに入れ、プレーさせ、ゴールまで決めさせるケイロスの弱腰は、何なのか。チームを締めるべき監督がこれでは、選手がだらけ切っているのも無理はない。

 ベッカム、ジダン、グティの3人は、チャンピオンズリーグ予選免除をかけた大切な試合、レアル・ソシエダ戦の出場停止が決まった。それが意図したものかは知らない。フロレンティーノ会長がいくらアジア・アメリカツアーの重要性を強調しようと、選手はどこ吹く風、まるでやる気が見られない。

“銀河の戦士”などと持ち上げられるのは本意ではないかもしれないが、歴史あるレアル・マドリーの一員という誇りは抱いていたはずだ。そのプライドと、プロフェッショナルとしての意地はどこに行ったのか――。それとも、本当にわざと負けているのか。

 もし、日本へ行きたくないのなら、来なくてもいい。

 今のレアル・マドリーでは、日本サッカーが学ぶどころか、反面教師にしかならない。

デイビッド・ベッカム
グティ
レアル・マドリー
ジネディーヌ・ジダン

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