今週のベッカムBACK NUMBER

バイエルン・キラーのベッカムがグラウンドで見せた喜怒哀楽。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/03/18 00:00

バイエルン・キラーのベッカムがグラウンドで見せた喜怒哀楽。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 バギーパンツを腰ではき、Tシャツを重ね着する。紅白のキャップからは金色の後ろ髪が流れ出ている。ふたりの息子たち、ブルックリンとロメオと共に練習場から去って行ったお父さんの雰囲気は、ピッチでは知ることができない。また、ビクトリアが所属する芸能事務所に移籍したベッカムはサッカー以外のマネージメントだけでなく、彼を包む空気までもモデル級である。どの国へ行っても、彼を恋焦がれる女たちがいる。甘い声援が飛ぶ。ミュンヘンでも、それは変わらなかった。

 マンチェスターで寒さには鍛えられていたベッカムだが、バイエルンとのチャンピオンズリーグ第1戦では動きが鈍かった。彼だけではない。連鎖反応するかのようにレアルの選手たちのプレーは、凍えていた。バイエルンの気迫に圧され、ピンチを招くたびにGKカシージャスがボールを跳ね返した。だが、これもフットボールの興趣なのか、3失点ノーゴールで折り返しても不思議ではなかった試合は、1対1のドローとなる。

 マンチェスター時代から相性が良かったと振り返っていたベッカムの運は生きていた。ベッカムではなく、ロベルト・カルロスが放ったフリーキックはオリバー・カーンの脇を抜けてゴールへと吸い込まれていった。ロナウドがスクリーンになっていたとはいえ、カーンは大きな過ちを犯した。翌日、彼は笑いものになってしまった。

 ラス・ロサスの練習場でときおりフリーキックの個人競争が行われる。サンティアゴ・ベルナベウでの第2戦前日のことだった。ビデオ判定で出場停止処分を受けたロベカルの出番がなかったのは残念だったが、ジダン、フィーゴ、ソラリ、それにベッカムと華やかな顔ぶれがそれぞれ並んだ。やはり、ダントツで金髪のイギリス人がゴールを決めた。ノープレッシャーとはいえ、その決定率には誰もかなわない。

「長い距離のときはロベルトが、近距離のときにはボクがフリーキックを蹴るようにしているかな」とベッカム。それに、彼はフリーキックが上手いだけでなく、好きであることが伺える。ロベカルとベッカムが交互にフリーキックのボールをセッティングするときがある。しつこいぐらいにふたりは演技をする。どちらも蹴る雰囲気を作る。フリーキックのたびにふたりは笑みを交わしては、GKを覗いてポーズをとる。真剣勝負のなかで、白い歯をこぼして楽しんでいるベッカムがいる。

 ベッカムは、いまもまだスペイン語での会話はままならない。フィーゴ、ソラリ、ラウール・ブラボなどイングリッシュが得意な4、5選手と話をするぐらいだという。それでも、練習ではロベカルやサルガドが彼をイジる。頭を叩いたり、お尻を蹴ったり、子どものようにじゃれ合う中にベッカムがいる。

 ロナウドが戦線離脱し、ロベカルが警告で出場停止処分を受けていたにもかかわらず、リターンのバイエルン戦はレアルのペースで進んでいった。決勝弾となったジダンのゴールは、ベッカムのクロスが相手DFに当たり、宙に浮いたボールにサルガドが果敢に飛び込んでいったことで生まれた。バイエルンの守備陣はマイ・ボールだと油断していたのだろう。その隙をサルガドは見逃さなかった。

 サルガドの肩を抱いてベッカムはゴール裏を駆け抜けた。身体全身で喜びを露にするベッカムにチームメイトが集まってくる。いつかイギリスに戻ってしまうのか。いつかチェルシーに引き抜かれることもあるのか。そんなベッカムを取り囲む噂もあったが、あの笑顔はレアルだからこそ、拝めるのだろう。しかも、ほとんど毎週だ。そして、乱闘寸前のときには先陣を切ることもある。バイエルン戦で、カーンと睨み合う目つきは恐ろしかった。あれが、あのお父さんなのか、と。

 ベールに隠されたベッカムがいて当然である。けれども、グラウンドでは無邪気な彼がいる。スタジアムでは敵に吼える彼がいる。笑みをこぼす彼がいる。ベッカムは毎週毎週、試合に追われるだけでなく、撮影やスポンサー絡みの仕事も忙しいという。サッカー選手で、芸能人で、お父さんで、イジられ、吼えて……。けれども、高飛車とか、プライドが高いなどイギリス人の空気は流さない。家族と犬を愛する、不思議なサッカー青年だった。

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